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17.5日目・幼馴染と主の回想(龍星side)
「初めまして、晴人です!よろしくね!」
初めて会ったのは小学3年生の春だった。
クラス替えで隣の席になった奴にオレはうんざりとした顔を向ける。
ニコニコとオレに笑顔を向ける彼が、初めて会った時は嫌いだった。
何が楽しいのか分からないけど理由も無くずっとへらへら笑って、頼んでもないのにあれこれと声をかけてくる。
「うっとうしい・・・」
「あはは、ごめんね?龍星君と仲良くなりたくて、ついいっぱい話しかけちゃった!」
「っ・・・ウザい」
どうせ親が金持ちだから、それが目当てだって、子供ながらに理解していたオレは来るものをひたすら拒んでいた。
実際に友達だと思っていた奴の親が『龍星くんと仲良くするのよ!あの子と仲良くしたらいい事あるから!』と言っていたのを見た事がある。
その後、影で『龍星といると疲れる』『お金持ちだからってえらそう』と友達だと思ってた人達が言っているのも聞いた。
偉そうにしたつもりなんか全くなかった。
普通に友達として関わっていたつもりのオレは、これ以上は嫌だと壁を作り、1人でいた。
(コイツもきっと今までと同じだ。
親に言われて仕方なくオレに話しかけて、どうせ影で色々言ってるんだろ・・・)
オレはハッキリと迷惑な事と、親が金持ちだからと関わっても意味が無いことを伝える。
しかし、彼はキョトンとした顔でオレに言った。
「え?お金持ち?へー!そうなんだ!・・・えっと、それがどうしたの?」
「は?お前もどうせオレがお金持ちだからだろ?」
「僕、龍星君がお金持ちなの今 初めて知ったよ。お金持ちだからとかよく分からないけど、龍星君だから仲良くなりたい。だから僕は龍星君につい話しかけちゃうんだよね」
でも、晴人は違った。
気がつけばいつもそばにいてくれた。
どれだけ突き放しても、酷いことを言っても、変わらずずっとそばにいてくれた。
「龍星君、僕と友達になってくれないかな?」
すごく嬉しかった。
『十文字家』の十文字龍星ではなく『一人の人』としての十文字龍星として見てくれていて、こんなひねくれたオレの事をそのまま受け入れてくれたのがすごく嬉しかった。
そんなアイツは優しくて強かった。
変に突っかかって来る奴がいても、困った顔をすることはあっても常に笑顔だった。
少し変わってるけど、アイツの周りにはいつも誰かがいて、その人達もいつも笑顔だった。
そして、晴人の紹介で、晴人の幼馴染の女の子。白石 雪姫 とも仲良くなった。
2人は1年生時からずっとクラスが同じで、それで仲良くなったらしい。
雪姫は活発で、天真爛漫を姿形にしたような女の子だった。
昔、晴人は雪姫を『太陽』、オレの事を『月』のようだと言ってくれたことがあった。
その時素っ気ない返事をしてしまったが、オレは晴人は『海』ような人だと思った。
心が広くて温かく誰でも受け止めてくれる。
穏やかで澄んだ綺麗な『海』みたいだと思った。
ずっと見ていたい。
ずっとその温かさに浸っていたい。
居心地のいい空気に包まれていたい。
別々にいると無意識に探してしまうぐらいにオレは晴人に好意を持つようになり、常に一緒にいた。
「ハルちゃん、大きくなったらユキをおよめさんにしてね?」
だから、ある日 彼女の言葉にオレは固まった。
(ハルがユキと結婚・・・?)
まだまだ先だし、例えそれが夢物語だったとしてもオレはショックを受けた。
オレがそんな事を思っていることなんて全くしらないアイツは、白の花冠を彼女の頭に乗せる。
嬉しそうにする彼女は無邪気にアイツの手を取る。
ギュッと胸が締め付けられる。
(あれ・・・?なんか、痛い。)
オレは鈍い苦しさを感じて思わず胸元をギュッと握る。
晴人は、雪姫に負けないぐらい嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「うん、やくそくする!大きくなったらユキちゃんとけっこんする!」
「ハルちゃん、大すき!」
嬉しい事なのに、なぜか『おめでとう』が言えなくて。
いい事なのに、素直に喜べなくて。
オレの周りにだけ空気がなくなったみたいに息が苦しかった。
(ハルが・・・ハルがオレのになればいいのに)
ユキじゃなくて、他の誰かのじゃなくて。
オレだけのハルになればいいのに。
その時はまだ知らなかった感情に困惑しながら、オレは叶わない事を願ってしまった。
そして、晴人が、ある日 雪姫と事故にあった。
「・・・っ、ハル!ユキ!おい!しっかり!しっかりしろ!だ、誰か、誰か助けて!!」
じわじわと赤く染まる2人を見て、心臓が止まるかと思った。
いなくなるんじゃないかと思うと身体が震えた。
叫ぶ事しか出来なかったオレは近くにいた大人に助けを求め、手際よく応急処置と病院に連絡をしてくれてなんとか一命を取り留めた。
雪姫は全身打撲、特に頭部を強打していたけど、擦り傷が多いだけでそれ以外に目立った怪我はなかった。
一方、晴人は雪姫を庇って車と直に衝突し、クッションにもなったのか全身に大きな怪我を負っていた。
幸い頭は打っていなかったけど、見た目からでも分かるくらい腕が曲がっていたり、綺麗な肌をそれが突き破って姿を現していた。
鉄の匂いがどんどん辺りに広がり、変わり果てた友達の姿とその匂いにむせ返りそうになる。
でも、それ以上にさっきまで一緒に笑い合っていた奴が、ただただ赤く、変わり果てた姿で動かなくなる恐怖の方が強かった。
「・・・りゅ、せ・・・」
虚ろな目のアイツは蚊の鳴くような声で言った。
オレは声を聞き漏らすまいとすぐ側まで駆け寄る。
「ハル!今、助けるから!待ってろ!」
「・・・ねがい・・・ユキ・・・だけでも、助け・・・」
「馬鹿!なに言ってんだよ!しっかりしろっ!ハルっ!!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
悪夢のような日から数日後。
夕方が先に目を覚ました。
ずっと眠り続けていた彼女が戻ってきて、家族もオレもひとまず安心した。
ハルは痛々しい姿のまま、人形の様に横たわっているが、ユキが無事でよかった。
「あれ、お母さん、お父さん。ここは・・・?」
「病院だよ。無事で良かった」
「良かった、ちゃんと目を覚ましてくれて・・・!私、どうなるかと・・・!」
「ユキ、お前1週間以上も寝てたんだぞ?ハルはまだ起きねぇし、心配したんだからな!」
雪姫はオレを見ると、キョトンとした。
「・・・君、誰?」
その場にいる全員が固まった。
医者によると、頭を打った衝撃で一時的な記憶喪失になったらしい。
日常生活に問題はなく、名前も家族の事も分かっていた・・・けど、オレやハルの事、他の友達の事が綺麗さっぱり、まるごと抜け落ちていた。
彼女は、記憶喪失になっていた。
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