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18日目・空白の時間

「ハルちゃん!」 「ユキちゃん・・・!」 強く強く抱きしめて、その存在を確かめる。 「ハルちゃん、私 ずっと会いたかった!でも、勇気がなくて、怖くてずっと逃げてた。ごめんなさい・・・!」 温かい・・・。 確かにユキちゃんはここにいる。 「ユキちゃん、僕もごめん。僕もずっと会いたかった。会えたら謝りたかった・・・!」 僕の目から熱いものが零れる。 「ユキちゃん、ごめん。僕のせいで事故に巻き込んで、ごめん・・・。助けてくれたのに助けてあげられなくてごめん・・・!助けてくれて、ありがとう・・・!」 「私こそ、助けてくれてありがとう・・・!」 ギュッとお互いを確かめ合う様に抱きしめる僕達に、困惑した声が尋ねてきた。 「『ユキちゃん』って・・・生きてたのか?」 「え?」 涙でぐしゃぐしゃになった顔を拭いて、 ユキちゃんは虎牙さんへ顔を向ける。 「私、そもそも死んでないですけど」 「えっ!!?」 「・・・・・・・・・」 虎牙さんは、どういうこと?と僕に視線で問いかける。 「・・・僕、ユキちゃんはいなくなったって聞いたんだけど」 「ちょっとちょっと!!ハルちゃんまで私を殺さないでくれる!?生きてなかったら普通に考えてこうやって抱きつけないでしょ!?」 ユキちゃんは溜息をつく。 「私、記憶喪失になっただけだよ。その後も・・・本当につい最近だけど記憶も戻ったし」 「・・・晴人?」 「ご、ごめん・・・」 2人の視線に僕は思わず目を逸らす。 「もう、しっかりしてよ・・・って言ってもお互い小さかったし、ハルちゃんはハルちゃんで色々大変だったんでしょ?怪我、大丈夫?」 「うん、すっかり。今はもうなんともないよ」 ユキちゃんを助けられたと知った今、あんな怪我なんて安いものだ。 「無事で良かった。・・・あ、そうだ!せっかくだからハルちゃん、今日 家に来ない!?」 「「えっ!?」」 「そこのお友達も一緒でいいから! それとも、これから用事とかある?」 「いや、ないけど・・・」 僕はチラッと虎牙さんに視線を向けると、虎牙さんは笑顔を向けてきた。 「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ 「晴人君、久しぶりね。元気だった?」 「お久しぶりです。由佳子さんも元気そうで何よりです」 白石家に着くと、ユキちゃんのお母さんが出迎えてくれた。 ユキちゃんのお母さんはあれから大きくなった僕を少し見上げる形で僕に笑顔を向ける。 (あ、笑った時の目がユキちゃんと同じ・・・) 「晴人君、ごめんね。・・・雪姫を助けてくれてありがとう」 「いえ、そんな!助けてもらったのは僕です。それに、ユキちゃ・・・雪姫さんの大切な記憶を奪ってしまって申し訳ございませんでした」 僕は頭を下げる。 「晴人君、謝らないで。晴人君も大変だったんだから」 「・・・いえ。僕なんか、全然。雪姫さんが無事で元気なら僕はそれで十分です」 「そう言ってくれると、晴人君には申し訳ないけど救われるわ。・・・ところで・・・」 由佳子さんは虎牙さんに目を向ける。 「こちらの方は?」 「ああ、彼は・・・」 「初めまして。西秋虎牙と申します。執事を目指す為、晴人さんのところで少しの間お世話になっております」 「西秋さん?私、どこかでお会いしたことがある気が・・・気のせいだったのかしら?」 「すみません。記憶には自信があるんですけど・・・でも、もしかしたらどこかでお会いしたのかもしれませんね」 人当たりのいい笑顔を浮かべる虎牙さんに由佳子さんは、うーん、と首を傾げる。 内心ヒヤヒヤする僕にユキちゃんは無邪気な笑顔を浮かべる。 「懐かしいね。前はこうやって一緒に机挟んで宿題したり、皆で遊んだよね。トランプとかすごろくとか」 「懐かしい。ユキちゃん、しょっちゅう貧乏になってたよね。たまに大博打でお金持ち」 「ちょっとちょっとー、そういうとこまでは覚えてなくていいんだけどー!」 「晴人はどうだったの?」 「良くもなく、悪くもなく。普通だったよ」 「確かに晴人が博打で金儲けしたり、浪費し過ぎて一文無しになってるイメージないな」 「ハルちゃんは堅実にって感じだよね」 ユキちゃんは温かいお茶を僕達に出してくれる。 湯気とお茶の香りが周りの空気を暖かくする。 話が一区切りついたところで、僕は切り出す。 「・・・いつ、記憶戻ったの?」 「つい最近、2ヶ月前ぐらい。すぐ伝えれれば良かったんだけど、覚えてない事が一気に出てきて混乱しちゃって・・・」 「仕方ないよ。きっと僕でもそうなるよ」 「ありがとう、ごめんね」 「ところで、どうやって記憶が戻ったの?」 「・・・・・・・・・」 ユキちゃんは言葉を詰まらせる。 そして、困ったように、悩んだ顔を見せる。 「・・・僕には、言えない?」 「・・・・・・・・・・・・龍星君」 ・・・今、なんて? 「龍星君に、教えてもらったの」 「龍星に・・・?」 僕は混乱する。 だって、龍星は、僕とずっと一緒にいて。 僕がユキちゃんの事で落ち込んだ時に、何も・・・ 龍星は全部知ってた・・・? 「なんで十文字がそこで出てくるんだ? 十文字も晴人と同じ認識じゃないのか?」 「龍星君は私が起きた時に会ってるから知ってるよ。毎月会いに来てくれてたし」 「・・・毎月?」 身体が段々冷たくなる感覚に襲われる。 知らなかったのは、僕だけだったの? 「毎月、十文字はユキさんの元へ会いに行ってたの?」 「うん。龍星君と一緒にいたのは記憶が無くなる前の1年間ぐらいだったけど、それまでのことと、それより前のこととか色々教えてくれたの」 ユキちゃんは微笑む。 「私が明るくて活発な子なこと、ハルちゃんと仲が良かったこと、どうして事故に遭っちゃったのか。とか」 けど、すぐ口角は下がり、手元に視線を落とした。 「最初は聞くのが嫌だったよ。記憶が無くなっていっぱいいっぱいなのに、なんでそんな事言うの?って。私の知らない・・・というか記憶がなくなってるから私の事でも他人の話されてるって感覚だったから訳わかんなかったし」 ユキちゃんは、マグカップをぎゅっと包み込む。 「でもね、拒絶してた私に龍星君は言ってくれたの。『オレと友達になってくれないか』って」 「あの、龍星が?」 あんなに強気だけど、人見知りで臆病なところがある彼が? 「ビックリしたよ。いきなりこの人何言ってるの?って。でもね、嬉しかったの。 全部忘れちゃった今の私とも仲良くなりたいって思ってくれてるんだって。 それから毎月どこか一緒に出かけたり遊んだり、お互い変わったことがあったらお話して・・・少しずつ前の私の事もその時に聞いて。それで、つい最近思い出せたの」 まだあんまり実感無いけど。とユキちゃんは笑顔のまま少し困ったように眉を下げた。 「ごめんね、ハルちゃん。でも、これは私のせいだから龍星君を責めないでほしい」 「・・・わかった。」 僕はいつの間にか温くなってしまったお茶で喉を潤す。 「ユキちゃん、話してくれてありがとう」 多くは望むな。 彼女が生きていた。無事だった。 失っていた記憶も戻って、僕と会ってくれた。 ずっとこの時を、あの日から夢見てたんだ。 これで、十分じゃないか。 ・・・でも。 「でも、僕も、ユキちゃんに会いに行きたかったな」 下手くそだけど、僕も笑顔を作ってみせる。 そんな僕に、黙って聞いていた虎牙さんはテーブルの下でぎゅっと手を握ってくれた。

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