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19.5日目・初めての恋が終わる時(雪姫side)

久しぶりに会ったハルちゃんは、 やっぱりかっこよかった。 同じぐらいの背丈だった彼は私よりぐんと高くなっていて、モデルの様なスラッとした体型になっていた。 大きな瞳に明るく可愛い笑顔のイメージは、 少しタレ目で優しい雰囲気を残しつつも知的で頼もしいカッコイイ男性に変わっていた。 でも笑うと目が線みたいに細くなるところとか、穏やかな口調とかは変わってなくて安心した。 ただ昔に比べて笑顔が少しぎこちない、というか硬い気がするけど。 【男の子】からすっかり【男の人】になった彼につい緊張してしまい、心臓が煩い。 「晴人、せっかくだから久しぶりに二人で話してきたら?俺、席を外しておくから」 と気を利かせてくれて二人にしてくれた西秋さんに甘え、ハルちゃんと私の部屋に移動する。 この前、気まぐれでだけど掃除しといてよかった。 「ユキちゃんのお部屋、可愛いね。 昔からピンク似合うし、お花好きだったよね」 「ありがとう、ハルちゃんは相変わらず褒め上手だね」 全体的に白とピンク。そして花柄のアイテムで溢れた部屋を、ハルちゃんはさらっと褒めてくれてる。 ちなみに龍星君は『ゴテゴテしすぎじゃないか?掃除しろよ』だった。 同じ男の子でどうしてここまで違うんだろう。 って本当に不思議になる。 「よかったらそこのクッションに座って?」 「ありがとう」 ハルちゃんは背筋を伸ばして行儀良く座る。 指先が揃っていたり、動きが丁寧だったりと一つ一つの仕草が綺麗でお上品だ。 (ハルちゃんの方が王子様みたい・・・) 「なんか、お姫様みたいだね」 「えっ!?」 「お部屋も女の子って感じだし、今日のお洋服も白のワンピースで綺麗だから」 「あ、あはは、ありがとう!でも私 お姫様って柄じゃないから」 「そうなの?でも、僕の中ではユキちゃんはずっとお姫様のままだよ」 顔に全身の熱が一気に集まる。 どうして彼はそんな砂糖みたいに甘いセリフを嫌味なく(むしろ絵になる)言えるんだろう。 あまりにも優しい言葉に、本当に自分がお姫様なったんじゃないかと錯覚してしまう。 「ユキちゃん、顔赤いけど大丈夫?」 「大丈夫!大丈夫だから!」 「体調悪かったら言ってね?」 (ハルちゃん、慣れてる・・・!) 私は手をパタパタと扇いで顔に風を送って、熱を冷ます。 「そ、そういえばハルちゃんは今日まで何してたの?」 「え?」 「ハルちゃんの事色々聞きたいなって思って。離れてた間、龍星君からちょこちょこ聞いてはいたけどハルちゃんから聞きたいなって」 「中学まで龍星と同じ中学校行って、高校からは龍星の学校と同じ敷地内にある執事の養成学校に通ってるよ」 「すごいね。なんで執事になろうと思ったの?」 「父さんもだけど、ずっと僕の家系は十文字家の執事として仕えてたから。その道に進む環境が揃ってたし自然にそうなったって感じかな」 ハルちゃんは少し考えた後、恥ずかしそうに笑う。 「あと龍星と『ずっと一緒にいる』って約束したから。執事だったらその約束も守れるかなって」 「そうだったんだ」 ・・・多分だけど、2人がした約束はそう簡単に第三者が踏み入れて良いものじゃないというか。 何重にも頑丈な金庫で保管された宝石みたいに大切で、幾重にも絡まった鎖みたいに複雑で言葉にずっしりと重みがあるように感じた。 「ユキちゃん、僕の家でよかったらいつでも遊びに来てね。その時は最大限おもてなしをするから」 ハルちゃんは手を胸にあてて恭しく礼をする。 どうしても王子様に見えるそのしぐさに見つめてしまう。 「そんな事されると、慣れてないからすごく恥ずかしい・・・」 「アハハ、瑞希も喜ぶと思うから気が向いたら来てね」 ハルちゃんの行動、一つ一つが心臓に悪い。 俳優さん顔負けにカッコ良く成長した幼馴染に翻弄されっぱなしだ。 (いや、まあ龍星君もカッコイイ部類には入るんだけど) 「僕の事より、ユキちゃんの話聞きたいな」 ハルちゃんは苦笑する。 「あの龍星とまた仲良くなるの大変じゃなかった?」 「確かに何でもストレートに言うし、頑固だしワガママで強引だし。・・・でも龍星君はきっとハルちゃんの為に、私とまた友達になってくれたんだと思うの」 「えっ・・・?」 「だって2回目の初めて会った時に言った最初の言葉が『記憶は戻ったか?』だから」 ハルちゃんは目を丸くする。 これはあくまでも私の勝手な推測だけど。 「さっきも軽く話したけど勿論その時の私は記憶がないから、知らない子がいきなり現れて何か言ってるの?って感じだったし、話も前の知らない私の話ばかりで苦痛だった。 『そんなに前の私が良かったの?』って。 放っておいてかったけど、そんな時に龍星君が『じゃあまずはオレと友達になって』って言ってきたの。これもハルちゃんからの影響だって言ってたよ」 私は少し声のトーンを落として似てないけど龍星君の真似をする。 「『オレの親友がオレに言ったことなんだけど、オレも最初 お前と同じ事を思った。 『何コイツ?』って。でも、アイツは違った。 純粋にこんなオレと友達になりたくて言ってくれてた。 オレにとっては前のお前も雪姫だけど、今のお前も雪姫だから・・・なんか、上手く言えねぇけど、今のお前とも仲良くなりたい。だからオレと友達になってくれ。ダメか?』」 ハルちゃんの顔に信じられないって書いてるのが見える。 龍星君、ハルちゃんに一体今までどんな事したんだろう。 「あの龍星が?ホントに?」 「うん。そこからはさっき話した通り毎月会う時間を作って色んな話してって感じ。 その時にハルちゃんのお話をよくしてくれて、ちょっと前に記憶が戻ってきたの。」 「そっか・・・龍星にお礼言わないとね」 柔らかい笑みを浮かべるハルちゃんに、私も言わないとなと返す。 「それで、全部思い出したんだけど・・・」 「うん。どうしたの?」 「ごめんなさい。私、好きな人が出来た・・・」 私は頭を下げる。 ハルちゃんは無言のままだった。 「私のせいで辛い思いしたのに、昔からずっと優しくしてくれたのにごめ・・・」 「うん、知ってた」 顔を上げた私に、ハルちゃんはさっきよりも優しい顔を向けてた。 「と言うより さっき分かった。龍星でしょ?」 ハルちゃんは手を伸ばすと私の頭を撫で始めた。 「だって龍星の話をしている時のユキちゃん、すごく綺麗だったから」 いつもが綺麗じゃないって意味じゃないけど。とハルちゃんは続ける。 「龍星の事、すごく好きなんだなって顔してたから。それぐらい分かるよ。一緒にいた時間は短いけどユキちゃんの事好きだったから」 「ハルちゃん・・・」 「ちゃんと言葉にして伝えてくれてありがとう。教えてくれて嬉しかった。それにユキちゃんは悪くないから謝らないで」 ハルちゃんの優しさに、視界が滲み始めた。 龍星君から私のせいで大変になった事は全部聞いてる。 潔癖症の事も、髪色の事も、人と壁を作るようになった事も全部・・・。 でも、そんな私を一切責めずにしかも気遣って優しい言葉をくれる彼に胸が痛くなる。 私にこんな事を思う資格はないけど。 「僕もユキちゃんに伝えようと思ってたんだ。 僕にも大切にしたいって思える人が出来たって。その人はこんな僕でもいいって受け入れてくれて、支えてくれた。だから僕もユキちゃんと同じなんだ」 ハルちゃんは少し恥ずかしそうに『秘密ね』と人差し指を口元に持っていく。 「ハルちゃんも、その人の事 すごく好きなんだね」 「・・・うん、そうだね。まだ片思いだけど」 「ふふっ、そっか。お互い頑張らないとね」 ハルちゃんと私はお互いに笑い合う。 「・・・そろそろ、リビングに戻った方がいいかな?虎牙さん、待たせてるし」 「そうだね、戻ろうか」 私達は立ち上がって、部屋を出る。 そして、部屋を出る前にハルちゃんがスっと手を差し出してきた。 「ユキちゃん、おかえり。それと、ずっと好きだった。ユキちゃんが僕の初恋で良かった。 ありがとう」 「泣かせるようなこと、言わないでくれる?」 私は滲んだ視界をクリアにして、手をぎゅっと握る。 「私もハルちゃんの事が1番好きだった。 私の初恋もハルちゃんで良かった。 本当にありがとう」 「こちらこそ、ありがとう」 そしてお互いにもう一度見つめ合う。 多分、きっと彼も私も同じ事を思ってる。 私達は目だけで合図してせーので伝えあう。 「また私と友達になってくれませんか?」 「また僕と友達になってくれませんか?」

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