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2日目・同居ルール
「なるほど。会社の手違いで俺がここに届いて、起動方法を知らず名前を読み上げてしまったと」
「本当にごめんなさい!」
テーブルを挟んで向かい合い、これまでの事を全て伝える。
すると彼は悲しそうな顔をした。
そりゃあそうだよ。
勝手に起動されて、しかも本来会うはずだった彼女に会えなかったんだから。
(元を辿れば悪いのは会社だし僕も被害者だけど、イケメンを悲しませるとかすごく悪いことしてる気分になる・・・)
「謝らなくていいよ、お前は悪くないし。
それよりこっちこそごめん」
「え?なんで虎牙さんが謝るんですか?」
「勘違いして迫ったから」
「あ、あれは不慮の事故だからしょうがないですよ」
僕は淹れたての紅茶を飲む。
ルビー色の液体がいつもより渋く感じる。
「・・・それで、すごく聞づらいんですけどスリープモードというか、シャットダウンの方法ってあるんですか?」
「え・・・?」
見た目は僕達人間にそっくりでも機械だから方法があると思ったけど、実際に冊子に目を通しても起動方法はあっても停止方法は載ってなかった。
落丁?と思ったけど確認してもそういう訳じゃないみたいだし。
虎牙さんは少し考えて、首を横に振った。
・・・え、まさか。
「ないの?」
「ないよ」
「な、なんで?」
「俺らは確かに機械だけど、人間を模擬して作られたから。人間は命を絶たない限り終われないだろ?それと同じでよっぽど暴走したりシステムエラーが出ない限り俺らは強制終了出来ないんだ。だから嫌でもこのまま作動し続けるしかない」
虎牙さんはさらに顔を悲しみで歪ませる。
「携帯なら充電しなかったら済むけど、俺らは万が一に備えて電池切れにならないように太陽光発電の機能もあるから・・・。」
なんてハイスペックなんだ、太陽光発電。
というか今時(?)のアンドロイドってすごい。
「ごめんな。いきなり知らない男と暮らすとか普通に考えて嫌だよな。俺が嫌なら・・・」
「いやいや、そういう意味じゃないんです!
もし万が一 何かあった時はどうするればいいのかな〜って思って!」
「・・・そうか、ありがとう」
虎牙さんは紅茶をごくごくと飲み干すと、安心したように息を吐いた。
そっか。見た目だけじゃなくてそういうとこも人間と同じようになってるんだ。
(あとアンドロイドって飲食OKなんだ。)
冊子に電池での充電の方が効率はいいけど、飲食でも充電可能。って書いてたけど・・・
機械も人間同様 飲食出来るようになったってのもなんかすごい。
あとで充電のやり方聞いておこう。
「まあ1ヶ月で短いとはいえ一緒に暮らすわけだから。改めてよろしくな」
「は、はい。」
「ところで名前は?」
「名前?」
「お前の名前。いつまでも『お前』って呼ぶわけにはいかないだろ?」
そう言われればまだ名前を言ってなかった気がする。
「香山晴人。香る山に晴れの人って書いて、香山晴人です」
「晴人、俺の事は勿論『虎牙』って呼び捨てで構わないから」
低く耳に心地いい低音にドキッとする。
声までイケメンとかずるくない?
「それで虎牙さん、お話が「虎牙」・・・え?」
「なんで俺がタメ口呼び捨てで、晴人がさん付け敬語なんだよ。晴人が俺の主なんだから普通逆だろ?だから晴人もタメ口呼び捨てで」
ほら、呼んでみて?と微笑まれる。
な、なんか彼氏彼女の会話っぽくて顔が熱くなるんだけど・・・。
「た、虎牙・・・さん」
「おいっ」
「ご、ごめんなさい。僕にはハードルが高すぎます「敬語」・・・高すぎるよ」
「そっかぁ。残念だなぁ、晴人に『虎牙』って呼ばれたいなぁ」
虎牙さんが少し伏せた目からチラッとこちらを伺う。
男の僕でもドキッとしてしまうのだから、きっと女の子がされたら間違いなく胸きゅんものだろう。
僕をメロメロにさせてどうするんだって感じなんだけど。
「努力しま・・・するよ。それで話なんだけど」
僕はA4のノートを取り出して広げる。
「お互い 1ヶ月一緒に暮らす為のルールを決めない?」
「ルール?」
「うん、例えば『夕飯は一緒に食べる』とか『掃除は交代制で』とかそういうの」
「いいな、それ。」
ということで、虎牙さんと早速ルールを考え始める。
なんだけど・・・
「さっきの『ご飯は一緒に食べること』は入れよう」
「晴人はまだ学生?じゃあ勉強とか部活で忙しいと思うから『家事全般は俺がやる』よ。だから晴人は最初にやり方教えて?」
「あと晴人がゆっくり息抜き出来るよう『休憩中のお茶は俺が淹れる』っと」
・・・虎牙さん、すごい楽しそう。
って待って、甘やかしすぎじゃない!?
3つ目のとかもうよく分かんない事になってるし!このままじゃダメ人間になる!
「あの、虎牙さん。ここは僕の家だし子供じゃないから自分の事は自分でやるよ」
「でも俺、働いてる訳でも学校にいってるわけでもないから何もすることないし。
出来る奴がやるのが普通じゃねぇの?」
「甘えすぎたら僕が何も出来ないダメ人間になっちゃうから。だからせめて半々にしよう?」
「まあ、晴人がそういうなら。」
「ありがとう。よし、決まったことからノートに書こう。何かあれば後で変更すればいいし」
僕は改めて姿勢を正して、虎牙さんに向かい合う。
その後、冊子を読み返して虎牙さんのプロフィールのページに『溺愛』『面倒見のいい兄』『凝り性で尽すタイプ』と書いてるのを見て、『中身までイケメンなのか』・・・と少し妬んでしまったのだった。
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