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3日目・主と執事と幼馴染み

目覚ましのアラームが、ぬるま湯に浸かってる様な暖かさと居心地の良さから現実へ目覚めさせるようとする。 僕は手だけ動かしてぼんやりしながら頭上に置いてある携帯を探す。 ・・・が、いくら伸ばしても携帯が見つからない。 そしてアラームが途中で止まり、 ギシッとベッドの軋む音が聞こえた。 「・・・ん?」 僕は閉じていた目を開ける。 「おはよう、晴人」 「うわあああっ!!!!?」 目の前で微笑んでいる見慣れないイケメンに僕は悲鳴を上げたのだった。 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ 「おはよう、晴人。朝から元気だね。」 「お、おはようございます、虎牙さん」 驚きで眠気が一瞬で吹っ飛んだ僕は、 リビングに向かう。 「ん?なんかいい香りがする」 「晴人が朝どれぐらい食べる人かわからなかったから適当に作ってみたんだ。」 「そっかー・・・え?」 ポーチドエッグ乗せのトーストにベーコン。 コンソメスープにコーヒー。 とテーブルの上にある料理が湯気と共に美味しそうな香りを辺りに漂う。 「これ全部 虎牙さんが作ってくれたんですか?」 「そうだよ。何が好きか全然分からなかったから適当に作ってみた。多かったり食べれないものがあったら残してくれて構わないから。あと敬語」 「あっ・・・つい。」 僕は虎牙さんの正面の席につく。 「虎牙さんの分は?」 「俺は起きるまで充電させてもらったから朝は食べなくて平気」 「そうなんだ」 (本当は朝、あんまり食べれないからトーストだけとか軽くで済ませてるんだけど・・・。でもせっかく作ってくれたんだし、食べないと失礼だよね) 「いただきます」 僕はさっそくトーストに齧り付く。 「美味しい!」 まろやかな卵と、カリカリのベーコンの塩加減。そしてパンのバターの味が絶妙に合う。トーストのサクサクとした香ばしい音も耳に心地いい。 コンソメスープは野菜とお肉の旨味が全体に溶け込んでいて、具沢山で普段なら食べ切れないはずなのにあっという間に平らげてしまった。 「晴人、ついてる」 虎牙さんが夢中で食べていた僕の唇の端に指を滑らせる。 離れてく指には黄色のソース(絶対卵だよね)がついていた。 「ごめん、美味しくてつい」 「口にあったみたいでよかった」 虎牙さんはその指を口に含んだ。 (うわっ、すごい色気・・・!) 「っ!?虎牙さん、一体何を・・・!」 「え?ついてたから」 「恋人ならともかく、普通こういうのはしないから!」 「そうなのか?悪い」 恋愛用のアンドロイドだから本当ならこういうことするのが当たり前なんだろうけど、残念ながら僕は本当の主じゃないし男だ。 虎牙さん。僕をときめかせてどうするの・・・。 「ふぅ、お腹いっぱい。ご馳走さまでした」 「お粗末さまでした。晴人、もしかして珈琲嫌い?」 「え?なんで?」 「全く飲んでないから」 僕はふとテーブルに視線を戻す。 そこにはすっかりぬるくなってしまった珈琲だけが手付かずのままだった。 「・・・ごめんなさい。珈琲、実は苦手で」 一応何度か克服しようとチャレンジはした。 結果 珈琲味のシフォンケーキとかなら大丈夫だったが、珈琲を飲むとどうしても胸がムカムカしたり気分が悪くなったりしてしまう。 「紅茶は大丈夫?」 「うん、紅茶は好き」 「じゃあ明日から紅茶にするよ」 虎牙さんは「今はこれで」と僕のところにリンゴジュースを出し、代わりに僕の珈琲を飲んだ。 「ありがとう。」 「いえいえ。ところで晴人、時間は大丈夫?」 ハッとなって携帯を見ると出発時間の20分前まで迫っていた。 「やばっ、急がないと」 僕はリンゴジュースを飲み干し、急いで身支度を済ませる。 そして最後にネクタイをきゅっと結び、アメジストの石がついたネクタイピンをつける。 「虎牙さん、おかしくない?」 「落ち着いているし一人暮らしみたいだから大学生だと思っていたけど、晴人は高校生なんだな」 「うん、高校生だよ。って見た目は?大丈夫そう?」 「大丈夫、素敵だよ」 少し恥ずかしくなりつつ、駆け足で玄関に向かう。 「じゃあ行ってきま・・・」 「行ってらっしゃい、晴人」 見送りで玄関まで付いてきてくれた虎牙さんは僕の額に口付けをする。 「なっ・・・にをっ・・・!」 「? 見送る時にはこうやってしないのか?」 「しないよ!?い、ってきますっ!」 (イケメンで料理できるし、自然に口説いてくるわ、一つ一つの行動が少女漫画みたいでなんかもう心臓に悪い・・・!) 林檎の様に真っ赤になった顔をあまり見られないよう逃げるように家を出た。 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ 「遅い」 そして氷の様に冷たい声に僕の体温はスッと下がった。 「・・・お待たせしてしまい申し訳ありません」 「主を待たせるどこに執事がいる。自覚が足りないんじゃないのか?」 じゃあ僕を置いて先に行っていればいいのに。と喉まで込み上げたがぐっと堪えて頭を下げる。 「龍星様の仰る通りです。申し訳ございません。」 「・・・お前はどうせ他でやっていけないんだから。これからはオレの足を引っ張らない程度にしろ」 「・・・はい、ありがとうございます」 顔を上げて、正面で仁王立ちをしている僕の幼馴染で仕えるべき人。 『十文字 龍星(じゅうもんじ りゅうせい)』から鞄を受け取り、車までエスコートする。 僕の家は代々、この十文字家の執事を勤めていて身内の贔屓目なしに見ても容量がいいというか優秀な人が多い。 実際に僕の父は優秀な執事兼秘書で、 母は世界に名を馳せる小説家。 妹は名門のお嬢様学校に通いつつマルチタレントをこなす才色兼備。 けど、僕は良くも悪くも見た目も中身も平凡だから家族の中で浮いているし言葉にしないもののきっと失望していると思う。 今、こうやっていられるのも今まで先祖達が築いてきたものがあるからだと理解している。 「ハル、早くしろ」 「はい、ただいま」 僕は龍星の後に続いてリムジンに乗り込み、少し間を開けて横に座る。 (昔の『幼馴染み』としての僕ならきっと隣に座るんだろうな。) 昔とすっかり変わってしまった関係に、顔を合わせる度に少し寂しくなってしまう。 (こんな事思ったなんて知られたら『図々しい』『分をわきまえろ』って怒られるんだろうな) ・・・龍星は今は僕の事なんて嫌いだろうし、逆に顔も見たくないと思うけど。 「・・・やっぱり変わったな」 小さく呟いた主の言葉は僕の耳に届かなかった。

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