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4日目・不安と安らぎ
「龍星様。今日のご予定は特にございませんので、いつも通り 部活動が終わる時間にお迎えに伺おうと思うのですが。よろしいでしょうか?」
「ああ、構わない」
「かしこまりました。それでは・・・」
「ハル、先日 お前宛てに大きな郵便物が届いてたけどあれはなんだったんだ?」
不思議そうな顔で聞いてくる主に僕は動揺しそうになった。
虎牙さんの事だ。絶対そうだ。
「先日・・・と言いますと、母がもうすぐ新しい本を出すのできっとその本のことですね」
「本ならもっと小さいんじゃないか?」
「今回はハードカバーの本で海外版も入っているので毎回少なくても15冊程は届きます。他に服やお菓子等のお土産も入っておりましたので」
龍星の顔が納得いかないと言いたげに歪む。
僕は何事もないように平常心を保つ。
虎牙さんのことがバレたら、龍星が彼に何をするかわからない。
それに1ヶ月限定だから知らない方がいいし、説明しても信じてもらえなさそう。
学校に着くと車からすぐに降りて教室まで龍星を送る。
「では、龍星様。放課後にまたお伺い致します」
龍星が何か言いたげな気がしたが僕は一礼してその場から離れる。
「・・・おはよう、香山くん。君のご主人様は今日もご機嫌斜めみたいだね」
と、龍星の隣のクラスから僕のクラスメイトで執事仲間の一ノ瀬くんが現れた。
「おはようございます、一ノ瀬くん。
声のボリュームが大きいですよ。それに あれが通常運営です」
2人で今いる校舎の裏の方にある執事やメイド専用の校舎に向かう。
一ノ瀬くんは見た目が若干派手で執事らしくないしお調子者だし発言が軽いところがあるけど、根はいい人で面倒見も良い。
僕も何度か助けてもらった事がある。
「香山くんはすごいよね。あの十文字様に小さい頃から仕えているだなんて。主は自分で選べないものだけど自分には無理だな。絶対すぐ辞退する」
「これでも昔はもっと優しい方だったんですよ。今は・・・恐らく反抗期なのでしょう」
「あー、でも確かに香山くんにはけっこう優しい感じだよな。他の人の場合一触即発って感じでピリピリしてるし」
「そうですか?それより、この前 一ノ瀬くんにお渡しした紅茶はいかがでしたか?」
「あれ、すごく良かったよ!自分んとこの主人、ブレンドするぐらいの紅茶好きで煩かったんだけどあれはすごい気に入ったみたいで毎日飲んでる。でもそろそろストックが尽きるからどこで売ってるか教えてくれないか?」
「あれは僕がブレンドしたものなのですが、喜んで頂けて何よりです」
「香山くんって紅茶も作れるんだな。ハイスペックすぎるだろ」
「簡単ですよ。よかったらレシピをお送りするので是非作ってみてください」
僕はスマホを取り出して一ノ瀬くんにメールを送る。
「ん?」
僕はその時に見知らぬメールが来ているのに気づき、開いてみた。
【おはよう。今 学校についた頃かな?
夕食も俺が作ろうと思ってるんだけど、何か食べたいものはある?
晴人が嫌でなければ俺に作らせてほしい。
俺は特にする事がないから、作らせてくれるとむしろ助かる。
それとアドレス登録よろしくね。虎牙】
(虎牙さん、どうやって僕のメアド知ったんだろ)
朝食を作ってもらったのに夕食まで作ってもらうのはさすがに申し訳ないけど、ここは厚意に甘えよう。
僕は虎牙さんのアドレスを登録し、
【晴人です。登録しました。
夕飯は出来れば洋食が食べたいです。
材料がもしないようでしたら帰りに買いますので遠慮なく言ってください】と返した。
「・・・香山くん、もしかして彼女出来た?」
「いませんけど?」
彼女なんて、1度もいた事がないけど。
「なんかいつもより表情が柔らかかったから、てっきりそうかと思って」
「僕は執事です。一日中主に仕える身の僕に彼女が出来るなんて想像がつきませんし、そもそも時間がありません」
「うわぁ〜、相変わらず真面目だね。香山くんの事狙ってる女子 結構いるみたいだけど・・・」
一ノ瀬くんは残念そうな顔をする。
「勝手なイメージだけど『ご主人様の為に尽すのが我が人生』って感じで恋愛とかしたことなさそう」
「・・・あながち間違いでもないです」
僕は苦笑いをする。
(いつまで龍星の執事でいられるんだろ)
顔を合わせる度にイライラさせ、毒を吐かれ・・・父さんぐらい優秀だったらと毎回思わずにはいられない。
早く1人前にならないと、と思うがいつも焦って空回りしてしまう。
そんなことを考えているとようやく執事やメイド専用の校舎に着いた。
この校舎では付き人の待機場所もあるが、僕達の様にまだ学生でもある人の為に普通に授業も行っている。
勿論 通常の授業以外にも執事になる為の授業やその為の資格取得の授業もある。
まあ、それを受講するかどうかは本人の自由だけど。
「今日の特別講義は『お茶』か。
香山くんのレシピを作るいい練習にもなるし出ようかな。香山くんは?」
「勿論、受講するつもりです」
自分達の教室に入り、各自席につく。
その時 また携帯が小さく震えた。
(あ、虎牙さんからだ。)
メールを開くと、
【晴人、メールでも敬語 禁止だからな?】
と文と共にムスッとした可愛い顔文字がついていた。
(出会って間もないのに、虎牙さんといると楽だな。)
ギャップに思わず笑ってしまった僕は【了解】と返したのだった。
約束その1・・・お互い敬語を使わないこと。
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