11 / 26

10

* 「自分で脱ぐ」 「いいから全部任せろって。俺が普段どういうふうにサービスしてるか、見るのも勉強になるだろ?」  脱衣所で服を脱がされながら俺は唇を噛みしめた。 今から俺は翔宇とセックスする――そう思うと緊張で膝が震えてしまいそうだ。心臓は今にも破裂しそうなほどに脈打ち、握りしめた拳の中にじっとりと汗が滲んでくる。 「響希が俺を信頼してくれるなら、俺も相応に気持ち込めてやるから」 「え?」 「本気出すってこと」  お互い裸になって浴室に入った瞬間、翔宇の日焼けした逞しい腕で抱きしめられた。  とろけてしまいそうなほどに温かい翔宇の体。ぴったりと密着した胸板や腹筋、そして何よりも男のその部分から、翔宇の熱が伝わってくる。  やがて俺を解放した翔宇が、シャワーの栓をひねって手で温度を確かめ、俺の体にそれを向けた。  俺の全身にシャワーを浴びせてからヘッドを固定させ、片手で器用にボディソープをてのひらに出し、俺の首から胸元にかけてマッサージするように撫で回す。俺は黙ってそれを見ていた。  腹部から腰に、翔宇の手が滑ってゆく。それから、俺の内股を。左右の脚を片方ずつ丁寧に洗った後、翔宇の手が俺のそれに触れた。 「っ……」  ゆっくりと前後に動かされ、俺は思わず翔宇の肩に手を置いた。 「声出していいよ」 「う、うるせぇ……」  右手を前後に動かしながら、左手が股の間を通り、翔宇の指が俺の入り口に触れた。侵入することはなく、ただ優しく指で撫でられる。 「ん、ぁっ……」 「まだ挿れねえから、力抜けって」  翔宇の肩に爪を立てていたことに気付き、俺は呼吸を整えながら手を離した。 「どうする。口でしようか?」  小刻みに首を振って頷くと、翔宇が再びシャワーを手に取った。真っ白な泡が流れてゆき、翔宇に扱かれて反応した俺のそれが露わになる。 「響希。壁に寄り掛かってた方がいいかも」  言われるまま冷たい壁に背をつけると、翔宇が俺の左脚を持ち上げて浴槽縁に乗せた。大きく足を開いた状態の俺を翔宇が見ている。これ以上ない恥ずかしさだった。 「エロい格好だな」  床に膝をついた翔宇が、俺のそれを下から咥え込む。足場の不安定さも手伝って、俺の体はどうしようもない程に震えていた。 「あ、あっ……翔宇」 「気持ちいい?」 「いい……!」  今度こそ、翔宇の指が俺の入り口に突き立てられた。 「んっ……」 「力抜いてろ。傷付くから」  入り口をほぐしながら、ゆっくりと、少しずつ翔宇の中指が入ってくる。 「痛い?」 「少しな……」 「じゃ、もうちょっと」 「あっ……あぁっ」  翔宇の指が更に侵入してきた瞬間、体中にゾクゾクとした電流が走った。気持ち良いのか悪いのかすらよく分からない。 「うわ、嫌っ……あ……」  あまりの緊張と不安で萎えてしまった俺のそれを、すかさず翔宇が口に含む。俺は翔宇の黒髪を掴みながら背中をのけ反らせ、恥もプライドも捨てて声を上げた。 「翔宇っ、あぁっ……あ、やぁっ……」  俺の中で翔宇の指が蠢いている。形容しがたい不思議な感触に、開きっ放しの口から涎が垂れた。 「あ、んっ……あぁっ」 「ん。これならローション使えば簡単にイケそうだな。響希、素質あったんじゃねえの?」  見ると、翔宇のそれも反応していた。 「で……でも俺、今はローション持ってねえよ……翔宇は?」 「え」 「え……?」 「………」  俺は足を開いたままで目を細め、翔宇を睨んだ。みるみるうちに翔宇の顔が青ざめてゆくのが分かる。 「だ、だって、そんなの急に用意してねえし……」 「じゃあなんで今やるんだよっ。俺はてっきりお前が持ってるモンだと……」 「だって響希とヤれるって思ったら止まんなくなっちまって……頭回んなかった」 「このエロ野郎……」  興醒めだ。  俺は足を元に戻し、溜息をつきながら浴槽縁に座り込んだ。 せっかく一世一代の決心だったのに……。あんなに恥ずかしい恰好までして、あんなにエロい声まで出してしまったのに。 ローション無しでの初体験なんて成功するはずがない。どんな地獄絵図が待っていることか、少し想像しただけでも寒気がしてくる。 「……どうしよっか」  焦りと照れが交じった表情を浮かべながら、翔宇が俺の隣に腰を下ろす。その情けない顔に、俺は容赦なく侮蔑の眼差しを向けた。 「お前、俺が本当の客じゃなくて良かったな。ローション忘れたとか、普通だったら超クレーム付くぞ」 「し、仕事でそんなヘマはしねえよ。ていうか取り敢えずさ、お互い抜いとこうぜ」 「俺はもう大丈夫だ。一気に萎えた」 「つれないこと言うなって。早く響希、手」  ……転んでもタダでは起きない男だ。 「ん、ぁ……」  浴槽縁に並んで座って互いのそれを手で擦り合いながら、俺は翔宇の肩に頭を乗せた。翔宇も空いた左手で俺の肩をしっかりと抱いてくれている。 「あぁ……あっ、ん……」 やっぱり翔宇にされていると思うと、どんなに醒めても萎えていてもすぐに熱がぶり返してくる。  翔宇のことが、好きでたまらない。 「響希。俺のと一緒に合わせて気持ち良くしよ」  翔宇が俺の手を引いて立ち上がらせ、そのまま俺の体を壁に押し付けた。 「……翔宇。ちょっとこれは、俺……」 「余裕なかったらしがみついてていいぞ」  向かい合い、俺と翔宇の屹立した雄同士が密着する。翔宇が両手で二本のそれを包み込み、上下に激しく擦り始めた。 「うあっ、あぁっ……!」  一瞬にして立っていられなくなる。俺は言われた通りに翔宇の首にしがみつき、快感に流されるまま濡れた声をあげた。 「翔宇っ! あっ、……あぁっ!」 「すっげえ超気持ちいい……。響希は?」 「お、俺もっ……あ!」  翔宇が両手でそれを扱きながら更に腰を動かしてきた。激しく擦れ合う俺と翔宇。もう、今にも気が触れてしまいそうだ。 「翔宇、俺もうイきそ……」 「俺も。一緒に出そうか?」 「ん、あぁっ……!」  こんなことまでして、同時に射精の約束までして、見つめ合ったり、強く抱きしめ合ったり……傍から見たら本物の恋人同士みたいな俺達なのに、どうして付き合ってないんだろう。 「翔宇っ、イくっ……俺っ、あ、あぁっ!」  好きじゃなければ絶対にあり得ない。いくら互いにセックス慣れしてるからって、好きでもない相手と仕事以外でここまでできる訳がない。 「俺もイく……響希っ、あ……」  翔宇は俺のこと、どう思ってるんだろう。もしかしたらほんの少しくらいは恋愛感情を持ってくれてるのではないか。 快感のどさくさに紛れてそれを訊くチャンスなのかもしれないのに、どうしても零のことがちらついて言えなかった。

ともだちにシェアしよう!