実験室で致そうとした２人は弥里に一発ゲンコツされ萎えた。２人は弥里が持って来た常温の水を飲むと、弥里に連れられて智子のいる資料室に向かう。 　碧にとっては見慣れた風景だが、寿樹は初めて見る膨大な蔵書の山と初めて感じる古い書物の匂いにただ驚くばかりだ。 「お疲れ様でした滝原さん。身体の方は大丈夫かしら？」 「ええ、なんともありません」 「なら良かったです。これは川原研究所(私たち)独自の実験で治験体の健康を保証できないんで安心しました……で、おかげさまで私の方もとても良いデータが取れたわ。これを見て」 　智子は一番大きな28インチのディスプレイに映像を映し出した。 「さっき２人の脳波から得た視界記憶…つまり２人の見る夢をもっと鮮明にした映像よ」 　廃れた大きな門と、武士の行軍が何かと交戦しているシーンが再生される。まるで時代劇のように人が容赦無く斬られていく。 「寿樹さん、こわーい」 「大丈夫だよ、怖かったら俺の背中に隠れな」 「うん♡」 　バカップルがイチャイチャしだすと弥里はわかりやすく舌打ちをする。ちなみに碧はスプラッタ映画が大好きだ。 「弥生殿、これが青成ってバケモノみたいな暗殺兵なんでしょ？」 　智子は弥里に向かってそう質問した。すると弥里は智子の机の上にあった黒曜石を耳に当てて深呼吸をした。瞬きから目を開くと弥里の目が青く光っていた。その異様な光景に寿樹は一歩退いてしまう。 「ああ、忘れもしねぇよ。ただの虚無僧(こむそう)かと思ったら、とんでもねぇ鬼だったよ」 　弥里はまるで映像の出来事を自身が体験したような口ぶりだった。寿樹がぽかんとしていると、碧がこっそりと教えた。 「あのね寿樹さん、みーくんの前世は僕たちの夢に出てくる“弥生の君”なんだよ」 「そうなのか？」 「あと所長もね、僕たちの夢には出てこないけど…この時代のお姫様が前世なんだって」 「はぁ…」 　寿樹はそう教えられて弥里と智子を交互に見る。青く光る弥里の目にはどこか懐かしさと恐怖を感じる。 「滝原さんはそもそもこの滝原家の子孫だからその影響かと思ったんだけど、弥生殿も滝原さんが滝原靖久だってわかるみたいだし…」 「お稚児趣味だったもんなぁ靖久(お前)、俺のことも狙ってたみたいだしな」 「えええ！？　やだやだやだ！　寿樹さんは僕だけだもんね！？」 　前世の性癖なのに碧は大嫉妬して寿樹にぎゅっと抱きつきかわい子ぶって頰を膨らませる。 「大丈夫だよ碧。あれは俺の前世のことなんだから、俺は俺だよ」 「ふふ♡」 　弥生は1000年の時を超えて「バカップル」というものを目にして吐き気をもよおした。 （いやいやいや…稚児趣味は変わってねぇじゃんか！　あの女子どもみてぇな男が妻なんだろうし…） 「ちなみに弥生の君は男性を装っていたけど実際は女の子だから安心しなさい」 「そうだったんですね！　なら安心です」 　逆に不安になれよ、弥生と潜在している弥里は心の中でツッコんだのであった。