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第11話
「はぁっはぁ、んっ……はぁ……」
ベッドの上に転がされたまま、希望は荒く呼吸を繰り返す。
初めておもちゃを使った刺激での絶頂の後、ようやく解放されて、ほっとする。
まだ振動をあてられた箇所がじんじんとしていた。
きもちよかったけど、ライさんに触ってもらいたかった……。
びりびりとした容赦なく緩急のないおもちゃの刺激よりも、ライの熱くて大きな手で、時には乱暴に、時には柔らかく弄ばれている時の方が好き。
そんなことを考えて、希望は慌てて頭を振った。
これ以上えっちなことをされたら死んでしまう! と煩悩を振り払う。
未だ拘束を解かれていないので、希望はもぞもぞと動いてライを見た。
ライはえっちなおもちゃが並んだ棚を眺めている。
「あの、ライさん……?」
「ん?」
ライが振り返る。
どうした? と優しく笑っていることに、希望は悲鳴を上げそうになった。
こわい。
この人の優しい仕草とか声とか表情はとにかく怖い!
希望は意を決して、口を開いた。
「も、もうほどいて?」
「なんで?」
「な、なんでって……」
「それより、次どれがいい?」
「え?」
希望の目の前に、どさどさっ、とおもちゃが落とされる。
「ひぃっ!?」
「どれが好き?」
「や、やっ……!」
「これとかえぐいな」
希望は「まだなにかするの?!」とびくびく震えて涙目になり、首を振っているというのに、ライは全く気にすることなく、楽しげにおもちゃを一つ持ち上げた。
男根を模した形のそれを見て、希望はまた悲鳴を上げる。
それは怒張した男根の、血管の浮き出たところまで細かく再現されていた。
「お前が俺のいない間にネットで買ってたやつと似てない?」
「なっ!? なんで知ってるの!?」
「お前が俺のカード使ったからだよ」
あ、そうだった! と希望ははっとした。
以前ライが家を一ヶ月ほど空けている間、どうしても身も心も寂しくて、自分を慰めるにはいろいろ足りなくて、購入したことがあった。
魔が差した、というのはあの状況を言うのだろう。
今思えば何故バレないと思ったのか不思議だし、浅はかな自分をぶん殴りたい。
「好きに使っていいって言ったのは俺だからそれはいいけど、さすがに面白すぎだろ」
真っ赤になって震える希望を見ながら、ライはケラケラと笑っている。
「隠してたけど、何あれ? バレないとでも思った?」
「あ、あれは! でも、あの……!」
「ああ、そういえば結局使った形跡なかったな。なんで?」
「……うぅっ……」
何もかもバレていて、希望は恥ずかしすぎて穴を掘って埋まりたかった。
けれどライは、黙っている希望に「なあ、なんで?」と詰めてくる。
「だって……!」
「ん?」
「……らっ、ライさんのじゃなきゃ、怖くて、いれられなかったんだもん!」
希望は行為の最中、怖くてあまりライのものをしっかりとは見たことがない。
咥えさせられたことだってあるのだが、やっぱりあまり見ないようにしていた。
恥ずかしいし、怖かった。それが自分の中に入れられると考えたら、とてもじゃないがまともに見ることができなかった。
だからネットでそれを買う時に参考にしたのはなんとなくぼんやりとした自分の記憶と、感覚だった。
手を添えた時にこれくらいだった。気がする。
入れられた時にここぐらいまで届いていた。気がする。
そうして注文して届いたものの大きさはおそらくライのものと近しいか、少し小さいくらいだっただろう。
いざそれを使用しようとした時に、希望は蕾にあてがったところですぐさま断念した。
こわい。
こんな、大きくて固くて、えげつないものいれるなんて、無理。
大きさと固さ、形状、そしてその無機質な冷たさは希望には恐怖でしかなかった。
寂しくて仕方なかった身体はすっかり冷めてしまって、希望はその『なんか怖いもの』を隠し、ライに会える日まで良い子に大人しく待つことにしたのだった。
希望はライに会えたことでその存在をすっかり忘れていたのが、よく考えたら隠したのはライの部屋だ。
見つからないはずはない。
恥ずかしさで真っ赤になって叫んだ後、希望はベッドに顔を埋めた。
「う、うぅぅ……」と呻いて、恥ずかしさに悶えている。
ライは希望の様子を眺めながら、ふーん、と興味なさそうに呟いた。
「あっそう。じゃあ、他のにするか」
「ほ、ほかのぉ……?」
希望が顔を上げると、ライがおもちゃを放り投げて、別のものを選ぼうとしていた。
「も、もうやだよぉ……! 変なことしないでよぉ!」
希望はうるうると瞳を潤ませて、怯えたようにライを見つめる。
それを見て、はっ、とライは笑った。
「変なことって? なに想像してんの?」
「……っ」
じっと覗き込むように見つめられながら、逆に聞き返され、希望は思わず目をそらした。
希望がぎゅっと唇を結んで黙っているので、ライはしばらく見つめた後に離れる。
「まあ、いいや。俺は確かめたいこともあるし」
「え、えぇ……? な、なにをぉ……?」
「お前がどの玩具のことを知ってて、どこでそれを知ったのか、とか」
「……? ラ、ライさん……?」
希望は背筋がぞわり、とした。
い、今一瞬……、
ラ、ライさんの声が、こわかっ……
「どこで覚えてきたんだろうなぁ?」
怯える希望を、ライが再び覗き込む。
「この淫乱」
その顔はもう、笑っていなかった。
お、
おこじゃ――――ん!!
希望は思わず後ずさった。いや、後ずさろうとしたが、拘束されたままでもぞっと少し動くことしかできなかった。
じぃっと希望を見つめるライの眼差しには、どす黒いものが轟々と荒れ狂っている。
それをすべて静かに押さえ込んでいる暗い瞳が、いつも以上に怖い。
希望はふるふると仔兎のように震えた。
なんで?!
だって、さっきのローターとかバイブのことくらい、俺みたいなお年頃の好奇心旺盛な子だったら知っててもいいでしょ?!
ライさんだって、ちょっとくらい……!
そこまで考えて希望は、あっ! と気づいた。
もしかして、ライさんは今まで道具なんて使わずに身体と声と顔とテクで男も女もどうにてもメロメロにできたから知らないのか!?
そういえばAVもあんまり見たことないんだっけ!?
そういう映画や漫画みたいな創作物関係全部「何が面白いのかわからない」とか言ってたし!
ていうかそもそも、モテにモテすぎてAV必要ない人生だろうなこの人は!!
っていうことは逆にピュアじゃない!?
ひゃあ! かわいい!!
そういうとこも好き!!
何故か胸がきゅんっ、とときめいたところで、希望は我に返った。
ライの目を見たら、とてもときめいているような場合ではない。
ライが冷たい無表情だったのは一瞬で、また楽しげに笑っているけれど、目は笑っていないし暗くて冷たく、鋭いままだ。
「せっかくだから、最後まで楽しく遊ぼうな。……いろいろ教えてもらうけど」
ライはやたらと優しい声と眼差しで希望を見つめている。
そして、ぶるぶる震える希望の頬を優しく撫でた。
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