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 木鳴弘文は少し前まで生徒会長を務めていた三年生。  会長をしていた時は髪の色を三週間おきに変えていたけれど、会長を辞めてからは卒業まで黒髪でいると宣言していた。  こっそりと黒髪ではなく焦げ茶にしたり青みがかった黒にしたりと変更しているのに気づいているのはきっとオレだけだろう。  オレが指摘すると「よく気付いたな、内緒にしとけ」と呆れたように笑う。  ずっと彼を見続けているのだから気が付かないはずがない。      彼との出会いは中学のときに制服のまま学園の外で買い物をしていた時だ。  中学になりたてだったオレは自分の着ている制服が金持ちの学校のものという意識もなければ人に脅されるとも思っていなかった。  高校生か体格のいい中学生三人ほどに取り囲まれたオレを助けてくれたのが木鳴弘文。  学外で学園の生徒を助けたり地域の清掃ボランティアをしていることもあり教師をはじめとした大人たちから学外での活動を認められていた。  最初は不用心だとか口のきき方がなっていないと邪険にされたけれど、本心から嫌われていたわけじゃない。弘文が中学を卒業して高等部に進学して学内で会えなくなったあとも学外で会っていた。  そういう立場をゆるされている自分は木鳴弘文にとって特別な人間だと思い込んでいた。  どれだけ本人から迷惑だと言われても気にしたことはない。  弘文には自分が必要だと固く信じていた。  だから、どれだけ邪険にされたところでとりあわなかった。  根拠のない確信と自信があった。    自分の間違いに気づくこともなく高校に進学してオレはまた弘文との学園生活を楽しんだ。  そして、弘文が三年生になり生徒会長の役職を予定通り後輩であるオレの同級生に譲った。  弘文と一緒にいる時間を作るために入った生徒会という組織にひとり取り残された。  わかっていたはずなのに弘文のいない生徒会室に落ち着かない。  オレの生活は弘文に出会ってからいつでも弘文を中心に回っていた。  休み時間は常に弘文の教室に顔を出し、弘文がサボっていたら見つけ出して一緒にいた。  中学で弘文が卒業した後は放課後にすぐ学外に出て弘文を探した。  オレが誰かに絡まれたりしていると弘文はすぐに面倒だという顔をしながら助けてくれる。  弘文がオレのピンチに間に合わなかった日はない。  運命なのだとオレは日々、確信を深めていた。  弘文がオレのものだからオレの言うことを聞くのもオレを心配しているのも当たり前。  オレが会いたいのだから口で何と言ったところで弘文もオレに会いたいに決まっている、そう思っていた。  勝手すぎる思い込みだ。

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