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四
オレが弘文の部屋で転校生を見てしばらくして転校生と弘文が昔からの知り合いで付き合っているという噂を聞いた。
そんなはずがない。
オレは弘文と中学で会ってからずっと一緒にいた。
そのオレが転校生を見た記憶はない。
二人の仲が親密だなんてはずがない。
けれど、二人が一緒にいる姿を見てオレの中にあった確信は崩れた。
何を根拠にしていたのか分からない「弘文にとってオレが一番だ」という自信、それが跡形もなく消えた。
同年代の仲間に接するように緩んだ顔で弘文は転校生に笑いかけていた。
オレに向ける呆れや疲れた顔とは全く違う弘文の表情。
長年の付き合いを感じさせられる気安いやりとり。
鳥肌が立ち、冷や汗が流れた。
オレの異常に気付いて気遣ってくれたのは弘文ではなく風紀委員長の兄だった。
元会計であるチャラ男な気遣い魔は毎日オレを甘やかす。
良い人だ。
次第にオレは弘文を避けるようになった。
弘文とセットのように転校生がいるからだ。
生徒会役員の仕事を精力的にこなすオレを風紀委員長が評価してくれたが正直どうでもいい。
風紀の中でオレの評価が上がろうが下がろうが興味ない。
貧血を起こしたりする場面に出くわしたからか風紀委員長とその兄はオレに対して過保護になった。
どうでもいいことだ。
弘文以外からどう思われていてもどうでもいい。
ただ弘文に嫌われ、疎まれることを認識してしまうのは耐えられそうにない。
避け続けるのも限界があるのでオレは覚悟を決めた。
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