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 周りは叩かれたりしないと言うが、それならそれでオレだけが特別なんだと感じていた。  それは勘違いだ。  木鳴弘文にとってオレは特別でもなんでもなかった。  転校生のことは労わるように優しく触れるのにオレに触れられることを避ける。  手を振り払われたことは何度もある。  人とべたべたするのは嫌いだと言っていた。  それでもめげずにオレは木鳴弘文にくっついて嫌がられ怒鳴られたり叩かれた。  常に拒絶されていたことにも気づけなかった。    今まで耳に入らなかった周囲の声がやっとオレの中に染み込んでいく。    木鳴弘文は自分の気を許している人間とも肩を組んだりしない。  場合によっては握手すらしたがらないような人種。  スキンシップは気持ち悪いのだ。  オレは木鳴弘文が引いた境界線を踏み越えてガンガン近寄って行った。  何を言われても引き下がらずにそばにいた。へばりついていた。    気が進まないと言いながら自分の親衛隊の男と関係を持とうとしたのは邪魔したし、婚約者候補の女と会うのも妨害した。  そのことを特別責められた覚えもない。  呆れたような顔をされたがオレの行動を本気で咎めたりしなかった。  だから、木鳴弘文にとっていい行動をしたのだと思った。思い込んでいた。  木鳴弘文が口に出さない本心をオレだけがわかっていると驕っていた。  オレはずっと傲慢だった。    木鳴弘文にとって特別なのはオレじゃなくて転校生。    年下であるオレが普通に話しかけると最初は敬語を使えとか、どうしてお前はそんなに偉そうなんだとうるさかった。  出会って数年たった今でも時折、口調については舌打ちされるのに転校生は同い年の仲間と同じように普通に話している。  目の前の風紀委員長の兄である木鳴弘文の親友と同じような空気で愛称である「ヒロ」と気軽に呼んでいる。  思い出すだけで不愉快な光景に早くここから消えてしまいたいと願った。願わずにはいられない。こんな悪夢見ていられない。    学校をやめてしまえば会うこともない。  学校をやめるためには妊娠するのが手っ取り早い。  家族に怒られることはないどころか祝福されることだろう。    下鴨は昔から当主を自分たちの子どもに産ませる。    だが、血筋なのか男が生まれやすく女が生まれにくかった。  そして、いつの間にか両性具有の子どもが生まれるようになった。  男の身体に女の膣を持って生まれた下鴨は誰の子でもいいから孕んで次の当主として育てる。  外から嫁をもらうことはもちろんあったがその嫁が産んだ子供は基本的に信用されない。  他の家の血が流れているかもしれないからだ。  生まれた子供が両性具有であった場合にだけ嫁はあたたかく迎えられ貞操を守っていたことを信じられる。  普通の子どもを産んだ嫁は不貞を疑われ最悪、家から追い出される。  血の継承に関して神経質な下鴨ならではとでもいうのか男が産んだ赤ん坊と子が産める身体の作りの赤ん坊以外は下鴨と言ったところで正式には認められていない。

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