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九
特異な体の作りのはずが一代おきに生まれいるので下鴨からすると男で膣があることは自然だった。
そのためオレは「気持ち悪いっ」と吐き捨てられた言葉が自分に向けられたものだと分からなかった。
久道さんが「そんなこと言うなよぉ」と弱った声を出すのでオレに向けられたのだと気づく。
オレを庇ってくれたのだ。
自分が気持ち悪いと言われても久道さんは笑って受け流す。
でもいつだって木鳴弘文がオレを攻撃してきたら「そういう言い方はダメだって」とフォローしてくれる。
オレはずっと本心から木鳴弘文が言ってるとは思っていなかった。
邪険にしているのはポーズで照れ隠しだとわかっていたから傷つくこともない。
オレが思っていた木鳴弘文の本心などどこにもない。妄想の産物だ。
人とは違うので気持ちが悪いと思う人がいるのは頭のどこかで理解していた。
でも、木鳴弘文に言われるとは思わなかった。
なんだかんだ言っても「仕方がねえな」とか呆れながら受け入れてくれるイメージがあった。
オレを突き放すなんてありないと思っていた。それはオレの勝手な願いだ。現実はこんなものだ。
「久道お兄ちゃん、エッチしましょう」
「その言い方かわいい!!」
テンションが高くなったのかオレを抱きしめようとした久道さんは木鳴弘文に裏拳を叩き込まれた。
無様にひっくり返った自分の親友を無視してオレの服装を整える木鳴弘文はおかしい。
オレに対して容赦ない態度は普通だったが会長時代は愛想がいいとは言われないまでも暴君や暴力的というイメージはなかった。
自分の親友にこんな態度に出るなんてありえない。
転校生が来てからありえないことばかりが起きている。
ケンカは弱くはなくても戦わなくて済むならそれが一番だなんて言っていた。
その木鳴弘文が自分の親友を殴りつける。これは異常事態だ。
お遊びではない本気の拳なのは倒れている久道さんの姿から分かる。張りつめた空気が怖い。
「いい加減にしろ」
制服をきっちり着せられ真っ直ぐ立たされてオレは木鳴弘文に見下ろされた。
中学の時に危ない場所に行くんじゃないと説教された時以来の真剣な表情だ。それになんだか嬉しくなる。
結局、オレを心配して気遣っている。オレが特別なんだ。
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