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十
転校生と一緒にいるところを思い出すと気持ちが深く沈み込んで木鳴弘文のことなど考えたくなくなる。
それなのに自分が気にされているのだと思うと心が躍る。
この日のために生まれてきたような気がする。
木鳴弘文の視線が自分に向けられていることにときめく。
「俺のことを好きだからってバカなことをするな」
思ってもいない言葉に首をかしげると「気を引くにしても冗談にならねえ」といつものようにオレを見て溜め息を吐いた。
久道さんが倒れたまま「素直じゃないなぁ」と笑うのは以前からよくあることで別にいい。
木鳴弘文に邪険にされたオレに謝ったりフォローをするのは久道さんにとっては日常だ。
いつだってオレの味方側に居てくれる。
優しくてオレに甘いと知っているからこそ妊娠に協力してもらおうと思ったのだ。
聞き逃せないのは木鳴弘文の言葉。
「オレ、別にセンパイのこと好きじゃないです」
好きか嫌いかなんて考えたことがない。
一目見て木鳴弘文は自分のものだと感じた。
下鴨家の人間として絶対に子どもを産まなければならないなら木鳴弘文の子どもだと確信していた。
それは勝手なオレの思い込みで間違いだらけの日々だった。
長々とオレは勘違いし続けていた。
別に木鳴弘文でなくたっていいのだ。
協力的な相手として久道さんがいるのだから構わない。
「もう付きまとったりしないので安心してください」
淡々と吐き出す言葉は他人行儀だ。
木鳴弘文にこんな口調で話しかけるのは自分でも違和感がある。
でも、以前には戻れない。
木鳴弘文はオレのものではなかった。
殺意が滲んだ瞳でオレをにらみつける相手をどうして自分のものだと感じていたのだろう。
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