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12 木鳴弘文視点
何がどう間違って今の状態に陥ったのか俺は説明できない。
下鴨康介はわかりやすい言葉で言えば「残念な美形」だった。
出会ったころは小学生と間違うぐらいに小さくて犬のような仕草も含めてかわいいの範疇内。
昔のままならキスの一つや二つはできたかもしれないが、高校になった康介はどこからどう見ても男で、男に対する興味なんかなかったのでどうにかする気もどうにかなる気もなかった。
仲間内から適当に生徒会や風紀や各役員の委員長なんかを出して学園全体がひとつのチームになっていた。
総長とか会長とか代表とかリーダーとか好き勝手呼ばれている中で俺の名前を「弘文」としっかりと呼ぶ人間はほぼいない。
祖父母もヒロくんと言うことが多いので康介にしか「弘文」と呼ばれていないのかもしれない。
大したことじゃないが俺の母親の名前が文子と言って弘という父親に借金を押しつけて去って行ったので愛着があまりない。
呼ばれてイラついたりするほどじゃないがみんながヒロと呼んでいるのにあくまで弘文と呼ぶ康介は空気を読まないやつだ。
誰かの妹と話してたり女友達とふざけてくっついていたら妨害してくるようなやきもちを焼いてくるうざったい後輩、そう思っていた。
いくら俺のことを康介が好きだとしても俺は男を好きになる気はない。
康介は何をしたところでアホで放っておけない後輩どまり、そう思っていた。
決定的な言葉はたしかに聞いたことはなかったが全身全霊で康介は俺を好きだとアピールしていた。
久道に生殺しだと言われることもあったが俺は最初から男に興味はないと言っている。
康介もそれは分かっていたはずだ。
俺を見つけると誰と何をしていても放って走ってくることもなく、俺を避けるようになった。
ときどき顔を出すと言いながら生徒会室に行かないことを拗ねているのか生徒会の仕事が忙しいのかバカやって周りを困らせてるのか考えはしたがタイミングがズレた。
康介に追いかけられることに慣れ過ぎて自分から康介に会って言うべき言葉が思いつかない。
元々、康介がひとりで勝手にしゃべっていて周りが適当に相槌を打つ。
俺とふたりだけのときはどちらかといえば静かで勝手に人の肩や背中にもたれかかって寝ている。
康介の印象は天真爛漫で変でアホで俺のことを好きすぎでウザい領域にはいっている後輩、そういうイメージだった。
康介とどうにかなることなんかありえない。
その気持ちは今でも変わらない。
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