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二十三
オレの考えが浅はかだったのか、訳のわからない事態になってしまった。
想像もしなかった展開だ。
今もまだ目の前の現実に気持ちが追い付いていない。
結果のみを一言で説明するのなら木鳴弘文と結婚した。
下鴨の家に婿養子として弘文がやってくることになったので木鳴弘文ではなく今後は下鴨弘文ということになる。
オレが久道さんに誰かを紹介してくれるように頼んでいるところに現れた弘文。またブチ切れていた。切れやすいお年頃だと覚悟していたオレは冷静に対処しようとしたが無理だった。
よくわからない会話に頭がついていかない内に話が終わって疑問が解決することなく引っ張りまわされ気づいたら取り返しのつかない状況。
わかりやすく誤魔化せない事実だけを表現するなら「オレと弘文の婚姻届を出した」この行動に集約される。
オレの戸籍は男性になってはいるが妊娠できる身体なので医師の診断書を出してもらうことは難しくない。診断書があれば戸籍を女性に書き換えることができる。
つまりオレと弘文が書類上の夫婦関係になるのに苦労しない。
だからといって夫婦になる必要はどこにもない。
オレは抗議や拒絶をいくらでもしたが弘文は一切聞く耳を持たなかった。
ビックリするほどオレ自身の意思は考慮されない。徹底的に無視された。
それなら最後まで抵抗して婚姻届に名前を書かなければいいがそんな簡単な話じゃない。
弘文の祖母というのがやり手で有名らしくオレと弘文をくっつけることで木鳴の利益を考えた。
下鴨側としてはオレが子供を産むことが最優先事項であり誰のタネであるのかは関係ない。
家に前もってお腹に子供が出来たと報告したのがまずかったのかもしれない。
弘文の祖母がお腹に木鳴の血が流れる子供がいるなら引き取ると主張したのだ。
これは当たり前のことでオレだって理解できる。
家を、血を、継いでいくために子供は必要だ。
とはいえ、もちろん下鴨家がオレの腹の中の子をゆずるわけがなく話は平行線。
双方の家の後継者問題でもめないようにオレが弘文の子をふたり以上産むことは決定事項になった。
そして、複数の子供を産むのだから婚姻を結ぶのは当然だと言われればその通り。
常識に照らし合わせてみれば選択肢として自然なものだ。
下鴨側はオレが未婚の母であっても戸籍が男だとしても気にならない。
オレの価値は下鴨の血を持つ子を産むことだからだ。
他は何一つとして注目されない。
オレが何を好きで何が嫌いでどんなふうに生きていきたいのかなど下鴨の家の中で気にする人はいるわけがない。
余所の家との揉め事は望まないがオレ自身がどういった立場になるのか気にしない。
木鳴の家はそうじゃない。
社会的な信用は必要になる。
親として子に対しての責任があると弘文は言う。
戸籍の性別書き換え、婚姻届を出さなければ折角オレが産んでも子供が木鳴に取られてしまう可能性がある。
オレに子育ての意思がほとんどないことがバレている。
学生である以前に責任感のない性格だと弘文によって決めつけられていた。
弘文の祖母にハメられたとは思わない。今までのオレの行動のツケが自分の首を絞めたのだ。
オレや弘文の意思はそっちのけで家同士の話し合いで結婚は決まった。
ただオレにとって幸いなのは家庭に入るという名目で外の情報は完全に遮断されたことだろう。
学校にいないので転校生の話など聞こえてこない。
家の外で弘文がどこで何をしていてもオレの耳には入ってこない。
それは安らかで穏やかな空間だ。
子供の泣き声と不快な噂話ならどちらがマシかなど考えなくてもわかる。
元々、オレは弘文のそばに居たくないのではなく、弘文と転校生がいる光景を見たくなかった。だから問題ないと言えば問題ない。決まったことに反抗するだけの気力もオレにはなかった。
結婚は人生の墓場だというが弘文にとって間違いなく最低の状況だろう。
それでも、オレは心のどこかで誰にともなく勝ったような気持ちがあった。
いびつな形ではあるが結局、弘文はオレのものなのだ。
思い違いが現実になった。それなのにあまり喜べない。
こうなる運命だったと断言できるのに胸がなぜか苦しかった。
それは本当に妊娠してお腹の中に弘文の子供ができても変わらない。
心から楽しかったあの日々には戻れなかった。
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