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 弘子が康介の腹にいる間ずっと寝込んでいて苦しそうではあったが、放っておいてもソファかベッドで寝転がっているのがわかるので俺の心は穏やかだ。家に帰って康介が居なかったら自分でもどんな行動に出るか分からない。  久道のところならまだいい。あいつは俺が来るまでの雑談に付き合うぐらいの気持ちで康介に対応するだけだ。どうせ康介の味方しかしないので俺から引き離そうとは考えない。康介の幸せを考えるなら今の状態がいいに決まっている。    弘子が腹にいる間の記憶が康介はほとんどないという。  ほぼ寝たり吐いたりしていたということだ。  苦しかろうが二人を健康的に産んでいたので三人目だって普通に産めるだろう。  弘子を妊娠している間、長男と次男は下鴨や木鳴の家に預かってもらうことが多かったので苦労はさせていない。  ともかく弘子は生まれる前から俺の味方だった。    八つ当たりなのか康介は勉強や免許のために家を空ける俺に合コン三昧かと斜め上なことを言い出していたが平和な時間だ。  その時に産まれていなかった弘子を含めて三人の子供とを最優先にして行動しているのにこんな罵りをする康介は常識が欠如している。俺の家族愛を理解していない。  将来のために活動しながら最大限に家族のことを思っている。  納得しない康介がおかしい。    元々、康介は夜中ずっと手を握っていろとか訳の分からない願いを聞いてやっても朝には覚えていないという恩知らずだ。  多少ヒステリックに騒いだところで昔から嫉妬深く面倒なやつだったので気にならない。      それも長女である弘子が生まれて変化していった。  一人産むたびに康介は少しずつどこか変わっているのかもしれない。  長男は康介の祖父母と両親、次男は俺の祖父母が主に面倒を見ていたが、長女は俺と康介が中心になって子育てをした。  産まれる前に予定を詰め込んでいたので俺に時間的余裕ができたこともあるが一番は両親たちやベビーシッターに弘子が懐かなかったからだ。  俺と康介以外に抱きあげられると泣いて暴れだす。  それは四歳になった今もあまり変わらない。  弘子はとても攻撃的だった。    長男と次男が一緒ならある程度は落ち着いているが、弘子は手のつけられない癇癪持ちで暴力的で口が達者だ。  ややヒステリックではあるが中学の頃の康介と似たようなものだと思ったのであまり気にならない。  適当に言うことを聞いてやれば納得する。  怒っていても尾を引かないのですぐに笑いだす。  昔の康介もそんなアホっぽい感じだった。

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