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 またしても康介は「離婚しない?」と言いだした。    食後に子供たち三人を久道に押しつけて俺と二人っきりになったと思えばこれだ。  ちょうど弘子の妊娠発覚などを思い出していたのでさすがにパターンは読めた。女の子を妊娠したんだろう。  なぜ康介は喜んで妊娠報告ができないんだろう。  バカなんだろうか。   「俺が男じゃないといやだって言ったか」 「じゃあ、予定通りでよかったですね」 「なんで他人行儀なんだよ」 「……他人だし」  拗ねたような顔をしているが康介が拗ねる理由が分からない。   「俺の名前を言ってみろ」 「弘文」 「フルネームで」 「木鳴弘文」 「違うだろ。下鴨弘文だ。他人じゃない。お前の夫で家族の一員だ」  俺の言葉に感動するでもなく抱え込んできてクッションをぶつけてきた。  四歳児と同じ行動をするのはどうなんだ。  そして、ホコリが立って苦しくなったのか激しく咳きこみだした。  こういう自爆行動は昔からずっと変わらない。  背中をさすってやろうかと手を伸ばそうとして届かなかった。 「うそつきっ、ぜんぶ嘘のくせに」  叫ぶように言って、なぜか走りだそうとする康介。  慌てて手をつかまえて引き留める。  ドジなので走ったら転んだり壁にぶつかったりする。  直線的にしか動けないイノシシのようだ。    昔からずっと猪突猛進で俺を見つけて走りよるついでにガラの悪い奴に肘鉄をかまして絡まれていた。  十割以上わるいのは康介だが俺はいつも康介が殴られるより先に相手を追い払っていた。  二、三発殴られたりして痛い目を見るべきだと思っても反射的に康介を庇ってしまう。  それは多分いまも変わっていない。 「お前がどれだけバカでも俺の言葉は覚えてるだろ」 「なに、なんのこと」 「俺はお前と違って嘘はつかない」 「それはうそ」 「なんでだ」 「……好きじゃない相手と結婚するとか、ふつうない」  苦々しく康介は言葉を吐き出す。後半は聞き取れないほど弱々しい。  政略結婚も見合いもおかしなことじゃない。今も昔もよくある。  誰もが恋愛を経て結婚するわけじゃない。打算の関係のあとに愛が産まれることもある。 「結婚の理由は人それぞれだろ」 「好きな相手が他にいるのに別の相手と結婚するなんて、そんなの偽装結婚じゃん。さいっていっ。弘文、最低だっ」 「偽装結婚は最低だとして、俺には関係ない話だろ」  なんで偽装結婚の話になったのか理解できない。  昼間にワイドショーでも見てたのか。

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