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三十三
弘文の祖母いわく木鳴の家のために無理やりに進めた婚姻が弘文の両親であり夫婦仲は冷めきっていたらしい。
最初からうまくいっていなかったが弘文を産んで以降とくに夫婦の関係は悪化、母親は借金を作って行方知れず。
残された弘文の父親は嫁の作った借金を返済するために仕事に忙殺された。というよりも家に帰りたくなかったらしく仕事をし続けて弘文を放置したという。
祖父母に育てられたような弘文は家族の在り方について固定観念がある。
それは自分の家族、自分の両親の否定だ。
弘文の祖父母から幼い弘文の暮らしを聞く前から気付いていた。
日曜日にやっていそうなアニメの家族が弘文の理想なんだろう。
オレが作り上げることなどできない世界だ。
下鴨の家はわりとバラエティーに富んだ家系図なので弘文の理想とする家族像は共有できない。オレの知る家族は弘文の家族と違う。
オレの父と父の弟はタネ違いだったりするが普通に仲がいい。
双子でも二卵性なら誰の子供か育たなければ判断できなかったりするぐらいにアバウトだ。
オレが本意ではないとはいえ弘文以外の男の子供を身籠ろうとしたように妊娠は婚姻が前提ではない。
それが下鴨の家だ。
下鴨の歴史を考えると配偶者を重く見ることはない。
軽視はされないが本質的にはよそ者扱い。
下鴨の人間が産んだ子供だけが下鴨の人間という扱いだ。
オレは自分が長男を産んで育てている最中に自分が産まなかったら自分の子供だと信じなかったかもしれないと強く感じた。
自分で産んだからこそ自分の子供だと信じられる。
長男はオレに似ず、賢く、温和だ。
夜泣きもせずまったく手が全くかからなかった。勝手に育っている。
弘文というよりもオレの父親に似ている。
成長して当主となったら同じような振る舞いになるのだろうか。
木を削りだし鈴を作っていたところから木鳴という苗字になったという話なので長男は鈴之介と名付けた。オレが決めた。
親としての自覚が足りないと日々言われるのでそれなら子供の名付ける権利をくれと言ったら本当に弘文はオレに任せてきた。「誰がなんと言おうと変更は受け付けない」そう宣言してくれた。
それだけ本気な弘文を見ればオレも真面目に考えざる得ない。
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