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三十五

 けれど、我に返るように現実を思い知らされる。  それは忘れようにも忘れられない、あの転校生のことだ。  オレが学園から去る前に転校生は副会長の席に座った。    弘文が会長ではなくなってどうでもいい場所に成り果てたとしても副会長なんていうものにオレは執着していたんだろうか。  未だに思い出しては引きずっている。  まだオレが学園内にいる間に転校生は副会長というオレの席に座った。  これは何かを暗示しているかのようだ。  本人にオレを追い落としたという自覚はないだろう。  オレのことすら知らなかったかもしれない。  引き継ぎとして顔を合わせることもなかった。    生徒会役員たちがそれを望んだのか弘文が推薦したのかは分からない。  ただ誰もが認めたからこそ転校生は学園の中心にいた。  転校してきたポッと出の人間がすべてを手に入れていた。  弘文の信頼も愛情も副会長という役職もぜんぶ。    オレが弘文にとってなんであるのか考えると吐き気がしてくるのでずっと目をそらしていた。  認めてしまえばどこにも居場所がなくなる気がした。  それは副会長という肩書きを失うより、もっと気分が悪く最低だ。    でも、考えないようにすればするほどに浮き彫りになる。    弘文に執着しているのはオレだけで、弘文にとってのオレは責任という荷物だ。  男である転校生は子供を産めない。  それが転校生とオレの絶対的な違いだが、そこに優位性などない。  すでに子供は三人いて弘文も満足したのかとくに次の予定はない。  長女ができてからオレが抱きついたり、かすめるようにキスしたりするだけで弘文からはほとんどアプローチがない。  会社を立ち上げたことで弘文が忙しくしていたり、女の子である弘子の育て方に悩まされて時間があっという間に経っていたということもある。

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