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四十五
「俺とどっか行く、何かするのは誰なのか賭けてゲームして負けておいてついてくる人の話を聞かないお前。賭けの意味がねえなぁ」
「仕込みのあるやらせゲームでハメられて言うこと聞く必要あるか? オレは負けてない」
「お前のその自己中な発言で俺がどれだけ迷惑したかは聞かなくても自覚があると思ったがそうでもねえな」
「でも! だって!! オレは!!!」
過去の自分は幼く傲慢だったとわかっている。
それなのにいざ弘文から責められると反論の言葉ばかりが口から出る。
オレは悪くないと弘文に言ってもらいたい。弘文にだけは受け入れられたい。
「揉めないためにゲームで白黒つけて俺の相方を決めようとしてもお前が絶対割り込む。……んで、場の空気が悪くなる」
「結婚してるからいいって、さっき弘文は言っただろ」
「結婚する前の話だろ。……ギスギスした空気をいつも誰がどうしてくれてたか覚えてるか」
「弘文がオレを『周りを見ろよ、自己中野郎』って罵った。心の狭いド鬼畜野郎」
「そこじゃねえし、俺の心が狭かったらお前の手足を折りにいくっての」
急に猟奇的なことを言いだした。
オレに対して弘文が暴力的なのはいつもことだが、手足を折ってもいいと思われていたのはショックだ。
弘文にとってオレはやっぱり子供を産む生きた機械なんだろう。
「場の空気が悪くなったら久道ともう一人が大体助けてくれただろ」
「……あぁ包帯にいさんが水戸黄門? そういう話か」
わざわざ自分のモテ自慢をしだして意味が分からなかった。
けれど、弘文が言いたいのはモテてた話ではなく、弘文の周りに群がる人間を追い払おうとして周囲からやっかまれたオレを助けた人がいるだろ、と。そういうことだ。
オレがやっと弘文の言わんとすることを理解したのに弘文の方が首をかしげて不審げな顔をする。
「包帯? なんだそれ」
半グレ集団のような弘文の仲間たちの中に顔面に包帯を巻いてニット帽をかぶりメガネをつけた不審者がいた。
奇抜なファッションで反社会性をアピールしながら「まあまあ、ここは穏便に」と御老公のような温和な雰囲気を出す包帯にいさん。
得体がしれない異様さがあった。
インパクトのある見た目なのでさすがのオレでも覚えている。
包帯にいさんは弘文と他の仲間より距離が近かった気がする。
それにイラっとしなくもないが、すっぱいガムを食べさせられて涙目になるオレに口直しのジュースをくれる。そういう人だった。
「悪い人じゃないけど食わせ物っぽい」
「そんなこと思ってたのかよ。あんだけ世話になっておいて」
「で、包帯にいさんがどうしたって」
わざわざこのタイミングで話題に出す人なのか疑問だ。
オレは弘文の本命の話をしている。
考えるのも嫌だけれど話し合わなければいけない。
何かあるたびに連想して思い出しては落ち込むのはうんざりだ。
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