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四十六

「あいつは……久道の兄貴だ」 「へえ、包帯してて顔分からなかった」  全然興味はなかったが弘文に怒られそうなので感心したようにうなずいておく。  久道さんは風紀委員長の兄だという認識しかなかった。三人兄弟らしい。 「久道は連れ子で上と下とは血がつながってねえんだ」 「包帯にいさんが久道兄だとして、で?」  話が見えてこない。  この会話はどこにむかっているんだろう。 「顔を隠してグレた義理の弟の様子を見にチームに入ったわけだ。すぐにバレたけど」 「弘文の仲間に包帯にいさんが入った経緯とかどうでもいい。オレも暇じゃないんだよ?」 「……だから、お前が言ってるバカな話がバカだって言ってんだよ。理解しろバカがっ」  突然の罵倒。  弘文はオレをすぐバカバカ言うけれど話が読めないのはオレがバカだからじゃない。  絶対に弘文はオレのことをエスパーだと思ってる。  心が読めないんだから話のつながりがわからなくても仕方がない。  悪いのはオレではなく言葉の足りない弘文だ。  オレ以外とは上手い具合に話している。年上だって手玉にとれるほど、ちゃんとした話術を持っているのに手抜きだ。オレに対して弘文は雑すぎる。 「お前が転校生だって言ってるやつは、お前が包帯にいさんって勝手に命名してるやつだ。これでわかっただろ」 「はあ? いま、久道兄だって話してなかった? 久道さんってもう一人いるの?」 「だーかーらぁ!! かわいそうってか、申し訳ねえんだろぉがっ」  苛立った様子で弘文がソファを叩く。  なんでこんなに二人してくだらない言い争いをしているのか分からない。  転校生の素性はそもそもオレに関係ない。  弘文が転校生を好きじゃないなら早くそう言ってほしい。  逆に転校生を好きだって言うならオレがここから出ていくしかない。  オレがしたいのはそういう話だ。    自分の所在が、立場が、居場所が、役割が、はっきりしないからオレはこんなにも身動きがとれない。  オレが断言できるのは子供たちはオレが産んだということだけだ。  育てたとか親としてやれているのかは胸を張って誇れない。  自分のことばかり考えて、悩んで迷ってばかりのオレよりも子供たちの方が精神が安定している。 「俺のってか、もとはと言えばお前のせいだ」 「なにが!?」  話をすり替えてオレを悪役にする気だ。  弘文のずる賢いところが現れた。  バカなのも悪いのも全部オレだって、そう言う気だ。

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