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四十七

「お前が絡まれたやつを俺が追い払って、あのころ、そんなことはよくあって……犯人は誰なのかはわからねえけど、俺たちの中で、見た目が目立つからあいつが復讐の標的になったんだ」  苦悩するように頭を抱える弘文は男前だと思う。  憂いを帯びた姿がいいと思っていたら内容は頭に入ってこない。  そうも言っていられないのでオレはひざ掛けの端をいじりながら「つまり」と、まとめる。 「弘文に殴られたやつが久道兄を襲ってファッションじゃない本当の包帯男になったわけだ」  冗談みたいな話でも不良界隈にはよくあることなのかもしれない。  弘文にくっついていてもオレは不良じゃないのでよくわからない。  報復行動はよくあることなのかイレギュラーなのか判断できないので弘文が訴えたい内容が見えてこない。  オレは話を横道にそらされているんだろうか。 「あいつは長男だったから久道たちと違って進学校にいたんだ。怪我のせいで勉強に遅れて連続で進級試験に受からなかった上に結構ないじめを受けたらしくて……俺たちの学園に転校してきた」  オレと弘文が通っていた中高一貫の学園は進学校というわけじゃない。  他の私立校から比べれば校則に多少の厳しさはあっても授業を聞いていればテストは平均点以上いく。 「義理の弟よりも下になった上に血のつながった弟とは同学年とか地獄じゃね?」 「元凶であるお前が言うな!! だから、俺らはみんな気を遣ってただろっ。昔のことでもアレは時効にならねえよ」 「いちゃいちゃするのが弘文の気の遣い方? かわいそうなやつがいたらキスしてあげんの?」 「お前の頭がかわいそうだから今キスしてやろーかぁ」  うなずいたら耳を引っ張られた。  キスしてくれない。嘘つきだった、 「お前には人の心がないのか!! この人でなしがっ」 「なんで!? キスしてくれるならしてよ! いいよ?」 「するかよ、バカがっ」  オレがされると思わなかったタイミングではキスするのにオレが頼むとしないなんて弘文はド鬼畜野郎だ。  人を翻弄して楽しんでいる。  見た目は魔王なのに小悪魔的だ。  大人の男がカワイイ属性をチラつかせるのは犯罪だと思う。 「転校生の転校してきた理由がかわいそうだとかオレに関係ない。 弘文がオレに優しくなくて転校生に浮気してた理由になんかなんない。 そもそも襲われた原因がオレや弘文だったって確定じゃないだろ。 復讐だろうっていうのは推測で本当のことは犯人を見つけなければ分かんないはずだ。 なんでオレが責められないといけないんだよ」  人違いとか、私怨だったとか。  いくらでも怪我をした理由はあるはずだ。  進級試験に受からなかったのもいじめられたのも究極的には自分の責任だ。  どうして弘文がオレを守ったことが原因になったと思い込めるんだろう。  報復の可能性があるなら目立つ格好をするべきじゃない。  正体を隠したかった久道さんにはバレたというなら普通の格好をすればいい。  弘文のように仲間というフィルターをかけていないオレからすると包帯にいさんの行動は自分から不幸な結果を手繰り寄せいているみたいだ。 「浮気を正当化させるための悲劇的なエピソードの創作?」 「ちげーよ……あいつと、誰とも浮気なんてありえねえ」 「それならそう言えばいいじゃん。なんで包帯にいさんが包帯になった話をすんの」 「今まであいつのこと気づいてなかったのか!? って、そういう話をしてんだよ」 「包帯にいさんは包帯だった。転校生は転校してきた」  わかるわけがない。  知っておけというのなら自己紹介をしに来るべきだ。  あいさつをされたところで覚えないかもしれない。  世話になったと言っても包帯にいさんの本名すらオレは知らない。  久道さんはオレに何十回と自己紹介をしてくれた。  覚えようとはしないオレを責めることなく、めげることなく、根気強かった。

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