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五十七

  「尻のあとに膣に入れるのは衛生的によくないからな」  なぜか覚えておけと念押しされる。 「で、どうする」 「弘文、なんでオレが自分で入れることになってんの」 「どっちに入れるか康介が決めていい。同時責めはお前の体力が残ってたらな」    決めていいのではなくオレが自主的にお尻を使うかどうかを見ようとしている。  オレがお尻に弘文の性器を入れたら弘文は男好きということになる。  女性器を積極的に使おうとしたら弘文は女好きということにもなる。  どちらを選択してもオレは自分の選択を悔やみそうだ。  弘文が男女どちら共にとられてしまう。そんな気持ちになって落ち着かない。    今まで気にしないようにしていたオレの身体的特徴。普通の人とは違うのは異常だと言い換えてもいい。これは弘文にとって気持ちが悪いものだ。受け入れられないものだ。    転校生が、包帯にいさんが、弘文と笑い合っていたことが問題じゃない。言い訳としてあのネタをオレはもう使えない。あの衝撃は本当に苦しくて痛かった。本当のところ一番の恐怖は転校生の存在じゃない。    オレが両性であることや下鴨の家のやり方は弘文の性格や生活と合わない。    集団をまとめ上げることに長けていて、大人数を周りに置くのが似合っている弘文の姿を忘れてない。  オレが見ていないだけで外で働く弘文は出会ったころと変わらずに輝いているはずだ。弘文が忙しいということはそれだけ頼られている証拠だろう。    生徒会室で副会長として一人で仕事をしていたオレと楽しく仲がよさそうな転校生と弘文たち。  対照的で笑えない。オレの立ち位置、存在がどういうものなのか、思い知った。  弘文に執着しているのはオレだけで弘文はそうじゃない。その淋しさと悔しさと苦しみを今もずっと忘れられない。オレの中から消えない。  オレは集団に馴染もうとはしなかった。当たり前に笑い合えている転校生に絶望したのはポッと出に負けたからだけではなくオレが同じ行動をとれないと思い知らされたからだ。    大勢の人間に囲まれる姿が似合う弘文と役割を課せられた人形でありワガママな未熟人間。    いろいろと半端なオレは弘文が許してくれる限りは何だってできる。好き勝手振る舞える。でも、弘文が許してくれないならオレはもう何もなくなってしまう。人形としてだって期限切れだ。   「弘文が、きもちいい、ところでいい」 「反省することにしたんだ、俺は」  何のことかと思ったら「下手なんだろ? 痛いんだろ? 俺とのセックス」そう言って笑う弘文が恐ろしい。  殺意の滲んだ瞳でにらまれるよりも怖い。   「康介に合わせる。康介のしたいように、康介が気持ちいいようにしてやる」    オレの頬をから首元を撫でる。失った温度がまた戻ってくる。さっきよりも心臓の鼓動は早く大きい。

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