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番外:下鴨家の人々 「次男」2

「コウちゃん、ライオンがないんだけど……また盗られたの?」 「ライオンはガオーだからな」  さっぱり理由にならない返事だったがこれでつまずいたら下鴨ではやっていけない。  コウちゃんは言葉の前半を聞いて適当に答えてから、頭の中で言葉の意味を考え出すので三回目ぐらいで会話がつながる。  俺の言葉を聞いていないわけじゃない。ただ頭に染み込んでない。 「がおーって人気あんの?」 「百獣の王だからな、きっと大人気だ」 「作ってくれってヒロくんに頼まれたわけじゃねーんだよね?」 「んー、弘文は『適当に作ったやつ、適当に持ってくからな』って。そして誰もいなくなった」  レゴブロックを手の中で遊びながらコウちゃんが言う。  話を聞いてる限りだとヒロくんの仕事に使ってるんだろうけれどコウちゃんは理解していない。  朝、起きたらレゴブロックで作った動物園が破壊されていたのだ。    俺にこっそりと動物が脱走していると相談してきたときは兄弟の誰かを疑っていないことをアピールするためかと思ったけれど、実は本当にレゴブロックの動物が動くと思っているような気がする。  コウちゃんは大人だけれど、そういった夢見がちなところがある。「気合いを入れたから動きそう」と言っていたのが冗談に聞こえなかった。 「もう! 適当じゃないじゃん!! コウちゃんの力作じゃんか。俺も手伝ったのにっ」  コウちゃんはヒロくんに甘すぎる。  なくなってもまた作ればいいと思ってるかもしれないけど、その場の感覚で作ってるコウちゃんの動物は同じものが出来あがらない。作り方を覚えていたり記録をつけたりしない。  これは俺がきちんと動物の作り方を残しておかなければいけないのかもしれない。 「そうだな、大きな家を作ってその中のものは持ち出し禁止にしようか」 「じゃあ、家の中に入っていいのは俺とコウちゃんだけね。兄貴も弘子たちも禁止!! ヒロくんも絶対だめだから!」 「深弘は?」 「まあ、深弘はおとなしいから許す」 「おにいちゃん格好いい~太っ腹ぁ~」  コウちゃんが寝転がっていた深弘に「よかったな」と声をかける。  そろそろ一歳になる深弘はものすごく静かだ。  弘子がメチャクチャうるさかったので女は全部うるさいと思っていたがほとんど泣かない、騒がない。  誰に抱かれても声を上げないので連れ去られたりしないか心配になる。  今はほとんどないが弘子は昔、レゴブロックを蹴り飛ばしジグソーパズルをひっくり返して暴れまわっていた。それを考えると深弘のおとなしさは奇跡だ。それとも大きくなったら深弘も乱暴者になるんだろうか。    弘子はおしゃべりが好きで、深弘はお昼寝が好きだとコウちゃんは言っていた。  おねえちゃんぶりたくて深弘にちょっかいをかける弘子を阻止するのが兄の使命だとコウちゃんに言われているがなかなか難しい。弘子は飽きっぽいのでレゴブロックで何も作れない。    久道さんがいると弘子の興味というか攻撃対象がそちらに行くので深弘は安心だが以前と違っていつもはいない。大人として久道さんも仕事をしているらしい。   「ヒロくんを犯罪者として訴えて勝とうっ!!」 「でも、ライオンはガオーで百獣の王で格好いいからなぁモテちまうんだろ」 「ヒロくんに奪われるならOKってこと?」 「まあな」    照れくさそうな顔をするコウちゃんはダメな人だと思う。  大前提としてコウちゃんはヒロくんに何をされてもいいという感覚でいる。  俺はそれに何だかイライラしてしまう。   「でも、そうだな。弓鷹との共同作業のを持っていく弘文は鬼畜だな」 「きちく?」 「悪人だ」 「ヒロくんは悪というか脇が甘い気がする」 「鋭い指摘だ。オレもそう思う。昔っから人脈が広くてモテてオレが放置される」    ぐぬぬとコウちゃんが奥歯を噛みしめる。  かわいかったので頭をなでていると兄貴が帰ってきた。  深弘を起こさないためか静かにやってきて俺たちを手招きする。  兄貴の気遣いがわからないコウちゃんは深弘を抱き上げてリビングに行った。  本当、コウちゃんは空気を読まない。深弘は目が覚めたみたいだが泣くこともなく騒がず静かにまた目を閉じた、良い子だ。   「どうかしたか」    コウちゃんは声を小さくしたりしない。  眠そうな深弘に容赦がない。  弘子なら癇癪を起して泣いて騒ぐところだが、深弘は空気を読んで無言だ。  まどろんでいたのを邪魔されても泣きだすこともない。

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