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番外:下鴨家の人々 「次男」3

「中学、私立の共学に行くって。おれ」 「下鴨の跡取りとして俺の父親と同じ学園に通うことになる。そういうもんだ」 「俺はヒロくんとコウちゃんが通っていたところがいい」 「なんでだ? 全寮制の男子校にかわいい女の子は居ないぞ」 「二人が通ってた学校がいい」  兄貴の意志は固いらしい。  ただコウちゃんはどうして兄貴が頑ななのか理解できない。 「ん~、弓鷹」 「木鳴のおばあちゃんからは俺の好きなところに通っていいって言われてる!」 「で、鈴之介はオレの父親が指定したところが嫌だ、と」 「いやなんじゃなくて……」 「ヒロくんとコウちゃんがどんな学園生活を送ってたのか兄貴は知りたいって、そういうことだろ」  俺の言葉にうなずく兄貴と微妙な顔をするコウちゃん。  学生時代に良い思い出がないのか唸り声をあげる。   「私立だから教師とか同じだけどな……どうせあいつらオレの悪口言うだけだろ」    うんざりとした顔をするコウちゃん。  小学校で聞いた限りコウちゃんは先生受けがいい。  優秀でかわいかったと昔の写真を見せられた。  表彰状を持っている写真が学校の廊下に飾ってある。入学式でヒロくんが発見して驚いていた。  好き嫌いもせず物わかりがよくクラスのまとめ役をしてくれるので先生は楽ができたと言っていた。  今のコウちゃんみたいにゆったり気ままではなかったようだ。   「弘文がハガキ出せっていうから出したら『子供できましたの前に結婚しましたハガキをよこせ』とか電話かかってきて面倒だったし」 「コウちゃん、愛されてる!」 「この場合の愛ってなんだ?」    真面目に言っているところがコウちゃんのダメさだ。先生の生徒愛を受け止められていない。  兄貴はすこし考えた後に「一緒に高校通おう」とコウちゃんに言った。   「まだ先の話だけど、俺がいるならヒロくんも許してくれると思うから高校卒業しない?」 「いまさら勉強とかコウちゃんだって面倒だろ。兄貴どんだけ真面目なんだよ」 「コウちゃんは別に勉強きらいじゃない」 「中高ではサボってたって言ってたじゃん」 「それはヒロくんがいたからだろ」    コウちゃん本人を差し置いて俺と兄貴が言い合う不思議空間。  兄貴の考えがまるっきりわからないわけでもない。実はちょっとわかる。   「でも、兄貴さあ……本当のところは寮生活になるからコウちゃんを連れてこうと思ってるだけじゃない?」 「俺はコウちゃんのために」 「嘘だ」    否定したのは俺ではなくコウちゃんだった。  笑ったり困ったり拗ねた顔ばかり見ていたので意外だ。  表情が抜け落ちた顔は弘子が持っている人形のように見える。   「鈴之介は弘文に頼まれた?」 「俺は俺の意思で動いてるよ」 「鈴之介の高校進学あたりが、そろそろ会社を大きくしたいとか、そういうタイミングになる。そんなところだろ。弘文は俺が邪魔なんだ」  何も言い返さないところを見ると兄貴もその可能性を考えたみたいだ。  ヒロくんは会社の話をしない。  家で仕事の話をしないくせに仕事のためにコウちゃんの作ったものを持っていく。  矛盾している。とんでもなく自分勝手だ。   「……逆だよ、コウちゃん。兄貴はコウちゃんがそう思わないように手を打とうと思ったんじゃない」  納得ができないという顔をするコウちゃんと青白い顔の兄貴。  兄貴はコウちゃんに疑われることに免疫がない。  ヒロくんが関わるとコウちゃんは結構ダメな人だが兄貴はそれをわかっていない。   「コウちゃんの気持ちも分かるけど兄貴を疑うのはかわいそうだってば」 「ごめん鈴之介」 「俺も急に変なこと言った。でも、コウちゃんが落ち込むのは嫌だ。……だから」 「つまり、弘文はこれから俺を落ち込ませることをすると」 「コウちゃんまたネガってる」 「ネガティブじゃない!!」    拗ねた顔のコウちゃんのほっぺたを深弘が叩く。  軽いぺちんっという音にコウちゃんはバツの悪そうな顔になった。  空気の読める妹を持って兄として誇らしい。  コウちゃんが「ごめん」とつぶやいて肩を落とす。   「鈴之介の言ったことは考えておかないこともない」 「コウちゃんは帰国子女の顔をしてれば余裕で学生に馴染めるよ」 「なあ、弓鷹。これはさすがに鈴之介に馬鹿にされてよな」 「兄貴はコウちゃんのことを考えすぎてある意味バカ」  バカ息子とバカ親だ。   「兄貴は未来の話より現在のライオン誘拐拉致を問題にしろよ」 「なんの話だ」 「ヒロくんが日々、俺とコウちゃんの愛の結晶を奪っていく。俺たちの仲に嫉妬してるんだ!!」  コウちゃんはなぜか「そうだったんだ!」と嬉しそうな顔をする。  こんなコウちゃんだからヒロくんに動物園を破壊されるんだ。もっとしっかりしてもらわないといけない。   「弘文には弓鷹と作ったのは持っていかないように話しとくよ」 「そういうことじゃなくって、全部を勝手に持っていかないように言い聞かせてよ! おかしいでしょ!! ヒロくん、泥棒だよ。兄貴もちゃんとヒロくんに言ってよね」 「俺はなんの話かまったく分かんない」  俺と違って兄貴は勉強ばかりしていた。  レゴやジグソーパズルをしているコウちゃんを横目で見ながら計算ドリルをする真面目人間。  遊び心がなさ過ぎて発展性に乏しい。  昔はジグソーパズルに絵を描いていた気がするのに今はずっと勉強ばかりだ。   「兄貴は創造性がねえよな」 「なんだよ、急に」 「だからコウちゃんの気持ちが分からねえんだ」 「弓鷹、鈴之介をいじめるな。一緒にレゴやろう」    兄貴は誤魔化されている気がしてもコウちゃんの提案に流される。  実はヒロくんに対するコウちゃんと同じかもしれない。  好きな相手の言いなりになっている。

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