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番外:下鴨と関係ない人「久道」2
「ヒロくんはいつもコウちゃんを困らせてる!!」
「それに関して俺は否定も肯定もしないけど、ヒロは目的のために人を動かすのがうまいんだよね。リーダーシップがあるんだよね。やりたいこと、やるべきこと、それを実現する方法のプレゼンがうまい」
「プレゼント? 贈り物??」
「プレゼンは……アピール? この商品はこんなにお買い得ですよ、とか」
「詐欺師が父とは嘆かわしい」
芝居がかった仕草で首を横に振る弘子ちゃんはかわいい。
ヒロは詐欺師ではないけれど、一歩間違えばそうなってもおかしくない。
そのぐらいの橋を渡ることもある。
最終的に帳尻をあわせてしまえば途中経過は気にしない。
康介くんとのことも康介くんを手に入れるという結論ありきで動いているから結構えげつない。
ヒロは容赦というものがない。康介くん自身が気にしていないし子供に言うことじゃないので黙っておくが、ヒロのしたことは正攻法じゃない。普通なら許されないことだ。
表面上だけなら順風満帆に見えて内実はぐちゃついている。それはヒロの生き方だけじゃなく、ヒロ自身、木鳴弘文の中身かもしれない。裏表がありすぎる。
「それで? ヒロくんは詐欺で稼いでると」
「違うから! 詐欺はしてません。本気で怒られるからさっきのは忘れて」
「お金の出所はいいのです。メルヘンは!?」
「ロマンスかな?」
ときどき弘子ちゃんは単語の選択がおかしい。
康介くんの趣味で時代劇と古い人形劇ばかり子供に見せている。
人形劇は見た目はかわいいけれど哲学的な内容も多くて子供向けに感じられない。
「コウちゃんが楽しめる話は?」
「康介くんは……ヒロの写真見てれば元気じゃない」
「役立たず、ここに極まれり」
立ち上がった弘子ちゃんにつむじをぐりぐりと押される。
かわいいので何をされても気にならない。
「康介くんは肌が白いし睫毛長いし小柄だから出会ったころって、中学の時は中性的で」
「おーっほっほっほ、ひざまづきなさいっ!!」
「中世のイメージが偏ってるけど、ヒロのこと好きな相手に対してはそういう態度の時もあったかな」
「コウちゃん不良?」
「不良はヒロだけどね。やつは根っからのワルよ」
「お代官様ここはひとつ」
「よいではないか、よいではないか~」
弘子ちゃんを持ち上げてぐるぐる回る。
まだまだ軽い。
「吐くわ、ぼげぇ」
「ごめんね。おにいちゃん、やりすぎちゃった」
「……それでコウちゃんは」
「コウちゃんはそりゃあもうかわいかったんですよ。ヒロの膝の上にあたりまえみたいにちょこんっと座って」
怒られるかと思いながら弘子ちゃんを俺の膝に乗せる。
嫌がらずに「それで?」と続きをうながされた。かわいい。
「ヒロが何か食べてるじゃん? それを横から取ったりするの」
「コウちゃんってば、食い意地が……」
「いや、ほら、姫も人が食べてるの食べたいなーってなるでしょ」
「なりませぬ」
「鈴くんのお菓子を横取りしてるよね!?」
「おにいのお菓子は私の」
「まあ、康介くんもそう言ってヒロと喧嘩したりしてたのよ。中学のとき」
「ヒロくん心せまい人」
康介くんの見た目のせいもあって怒るヒロに「まあまあいいじゃないか」とその場にいた半分近くが思っていた。
傍若無人であってもかわいいので許される。いいや、俺が許したかった。
だからそういう空気にもっていった。
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