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番外:下鴨と関係ない人「久道」3

 ヒロを慕う暑苦しい野郎どもより俺は圧倒的に康介くん派だ。  女の子はかわいいけれど気が強かったりひねくれている子ばかりだった。  チームに馴染めないというか馴染む気のない子だったけれど、かわいいので気にならない。  何を考えているのか読めなくても今もやっぱりかわいい。   「俺はさ、全身全霊なにもかもでヒロにぶつかる康介くんが微笑ましくて、心が浄化されるっていうかさ」 「ひーにゃん汚らしかったにゃん」 「子供だったから昔はいろいろと屈折してたにゃん」 「わからぬな」 「姫はたっぷりねっとり愛の海に沈んでるからね」  嫌味ではなくふたりの愛の具現化が子供たちだと思える。  だから子供好きではない俺も素直に弘子ちゃんをかわいいと感じる。  ヒロが家庭を築くのは意外だが俺が子守をするのもまた意外だ。 「欲しいものを欲しがってる人の姿って」 「滑稽であろうか」 「誰かにとってそう見えても俺には羨ましくて綺麗に見えたよ。弘子ちゃんもそう思うんでしょう」 「うん。コウちゃんはヒロくんといるとうれしいの」 「何もなくても幸せなんてすごいよね」    康介くんへの肯定的な俺の態度が嬉しいのか弘子ちゃんは満足気だ。  ヒロに褒められたときの康介くんのような喜びを滲ませる表情は愛らしい。  康介くんはいつだってヒロを自慢にしている。  大好きな旦那さまならそういうものかもしれない。  傍から見ていて羨ましい。      木鳴弘文の幸せを俺はずっと想像できなかった。  康介くんとの出会いは劇的だったけれどヒロがヒロ以外になれないと知っていたからこの展開は意外だ。  でも、下鴨弘文ならこうなって当然かもしれない。    木鳴弘文はさみしいなんて死んでも言わない。  誰かに愛してほしいとか傍にいてもらいたいと思いつきもしない。   「……久道さん、弘子と仲良すぎない? やっぱ、女の子は髪の毛やってあげた人を好きになっちゃうの」    ソファで寝転がって次女の深弘を腹の上に乗せた康介くんが拗ねたようにつぶやいた。  弘子ちゃんの髪のセットは俺がしている。  ときどきヒロもしているけれど、引っ張りすぎて髪の毛を千切ってしまうらしい。  康介くんは編みこみなんかが上手いけれど時間がかかるセットばかりで弘子ちゃんが大人しく座って待っていられない。  俺が来るまでは康介くんのお母さんがやっていたらしい。   「コウちゃんのさみしがりぃ~、ういやつぅー」    弘子ちゃんは走ってふたりのもとにダイブ。悲鳴の後に楽しげな笑い声。  すこし淋しいけれどこれでいい。    下鴨康介はさみしい時にさみしいと言える。  自分を放っておくなと訴える。その素直さは羨ましくてまぶしくて心地いい。    木鳴弘文はさみしいなんて死んでも言わない。  誰かに愛してほしいとか傍にいてもらいたいと思いつきもしない。  それなのに下鴨弘文は下鴨康介のようにさみしい時にさみしいと言うんだろう。  進化なのか退化なのか分からないけど羨ましい。   「ひーにゃん、このあたりなら、座るのを許す」    康介くんに近寄ると怒るのに輪から外れている俺を気にかけるあたりがやっぱりヒロの娘という感じ。  勧められるままに座ると弘子ちゃんは満足気にうなずいた。  気持ち悪いストーカーに悩まされていた俺の心にしみる優しさ。  どん底まで下がっていた気持ちが癒される。    自由人な康介くんを嫌う人がいるのはわかるけど彼は出会ったころからずっと一切の悪意がなかった。  彼が何をしても「オレの弘文をとるな」っていう副音声が聞こえるので和んでしまう。  かわいい嫉妬に苛立つような人間にはなりたくない。  ヒロの嫉妬はかわいくもなんともないけどね。

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