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番外:下鴨家の人々 「長男は未だに反抗を知らない」1

下鴨鈴之介視点。 ※番外編は時系列順に並んでいない可能性があります。  家に帰ると先に帰っていた弓鷹がサヤエンドウの筋をとっていた。  コウちゃんは深弘とソファで寝ている。  ソファの横にある籠からブランケットをとろうとすると「暑いと深弘が起きちゃうから」と言われた。  弓鷹はそういうところしっかりしているので信じていいだろう。  手を洗って今日中にやる宿題や課題を持ってリビングに行く。  サヤエンドウの筋とりは終わったのか弓鷹はキッチンばさみで昆布を切っていた。   「コウちゃん、塩昆布を作りたいんだって。昆布の佃煮になるかもしれないけど」 「意外とチャレンジするよね」    コウちゃんは常にヒロくんのことを考えている。だから、木鳴のおばあちゃんから料理を教わりだした。以前から教わってはいるようだけどヒロくんの監視の目がきつかった。食材を買うにも冷蔵庫のものを勝手に使うとヒロくんにバレてしまうし怒られる。    妊娠中は体調を崩しがちだったのでスーパーまで歩いていくなんて考えられなかっただろう。  弘子を産んでからもしばらくコウちゃんは寝込んでいた。深弘は平気だったのか今は体調がよさそうな日が多い。睡眠時間が深弘に引っ張られて増えているが食事も喉を通らないということはない。    だから、おばあちゃんも本格的に教えようとしてくれているのかマメに家に来る。  コウちゃんは俺や弓鷹が生まれたてのときに世話になったと言っていたけれど、記憶がない。まだヒロくんが学生だったので今と比べるとずっと家にいた気がする。    深弘を育てるのにヒロくんが非協力ということじゃない。弘子の時は昼には帰ってきていたし、一旦、夕方に顔を出していた。今は七時、八時に帰ってくることが多い。午後はコウちゃんが公園にいるからかもしれない。    こうして考えるとコウちゃんの食事量が減ったのはヒロくんが昼を一緒に食べていないせいだ。コウちゃんはヒロくんが食べていると同じものを食べたくなるから、ヒロくんがいないとあんまり食べない。   「前、コウちゃんが味噌が死んだって言ってたじゃん。兄貴、覚えてる?」 「いつだっけ、弘子の誕生日近いときだよね」 「味噌死亡前から料理あんまりしてなかったけど、味噌が死んでからはホントやらなくなった」 「久道さん居たし、おばあちゃんたちがおかず持ってきてたりして俺は気にならないけど」 「今は久道さんだって毎日、顔を出せるわけじゃないだろ」 「弓鷹は何が言いたいんだ。コウちゃんが料理をしたがってるのか」 「その通りだし、ちょっと違う」    昆布を切り終わったのか弓鷹はジャガイモの皮むきに入った。  子供用の包丁でジャガイモの皮をむいていく。  コウちゃんに頼まれたのか、コウちゃんがやる予定でいた仕事をしているのか。  どちらにしても淡々とこなしていて圧倒される。弓鷹の意外な姿に勉強しようと持ってきたノートに向き合えない。

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