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番外:下鴨家の人々プラス「海問題10」

下鴨弘文視点。  瑠璃川に年賀状でもらったのとそっくり同じ、あるいはパンフレットと同じ景色が目の前に広がっている。  家族で楽しい旅行のはずだが、久道と弓鷹がいつになく不機嫌な顔をしている。  そろいもそろって康介の前では何てことない表情を取り繕いながら俺をにらみつけている。    久道に関しては瑠璃川が「久道さん久道さん」まとわりついているせいかと思ったが、弓鷹は分からない。  瑠璃川を運転手にして買い物に行かせた日からずっと俺を避けている。  康介は「ハロウィンにかぼちゃ投げつけたらスッキリするんじゃない」と訳の分からないことを言う。  ハロウィンは十月末だ。遠すぎるだろ。怒りを溜めこむ期間が長いな。  わが子が理解できないなんて初めての経験だと思ったが鈴之介も弘子も深弘も把握しているのか問われるとうなずけない。自分の子供とはいえ自分ではないので支配したりするものじゃない。元気で育つならそれでいい。    だが、父親として「てめーの顔を見たくねえんだよ」と、ぼそっと言われた痛みは大きい。  避けられる理由を聞きだそうとしてこの切り返しだ。    ちなみに康介はいつになく笑っていた。康介が笑ったおかげで弓鷹も照れたようなすねたような顔になって、かわいかったが、そうじゃない。俺が何をしたっていうんだと弓鷹に問い詰めたいが聞けない。これ以上は聞けない。近寄るなというオーラが半端じゃない。    俺は康介と違って空気を読むのであんなにツンツン尖った弓鷹を相手にして抱きしめにいけない。康介は鋼鉄の心臓でも持っているのか触るものすべて傷つけそうな弓鷹とのスキンシップが今まで以上に激しい。    基本的にずっと深弘を抱いていたりする康介だが、最近は弓鷹に深弘を抱かせて背後から弓鷹に抱きついていたりする。俺が隣に座ろうとすると威嚇されるので近寄れない。    鈴之介は「実は俺も弓鷹をおこらせてるっぽくて」と不安げな顔をして、弘子は「身から出た錆であろうな」と何も知らないのに訳知り顔をされる。    こうなった原因はほぼ確実に康介だ。    瑠璃川が運転手として買い物に行ったあの日からの変化だが、瑠璃川が弓鷹を動揺させることなどできるわけがない。康介との接触を嫌がってはおらず、怒りの矛先が俺に向けられていることを考えると答えはひとつだ。    俺が康介に何かをした、そういうことになる。    鈴之介は長男だからか真面目すぎて時に杓子定規な言動になるが素直ないい子だ。弓鷹も素直ではあるが康介限定と注意書きがつきそうな程度に俺に対して心がちょっぴり閉じている。むかしはヒロくんヒロくんと俺の足元にまとわりついていた気がする。物心つくかどうかの時期のことを基準にするのは間違っているかもしれないが、息子に嫌われるのは思った以上のダメージだ。    一緒に風呂に入ろうと誘うと舌打ちされる。泣きたい。    ボクシングジムで仕事終わりに汗を流していると「欲求不満か?」と笑われた。  学校の繋がりではない街でいろいろあったころの年上の知り合いなので康介のことも知っているので、こうして、からかわれてしまう。  変なのにまとわりつかれたり匂いを移される心配がないので圧倒的にどこに行くにも知り合いの店が楽だ。    弓鷹に嫌われて落ち込んでいるのかと思ったが、長く康介に触れていないので欲求不満というのは正しいのかもしれない。    指輪を渡してから康介はある行動にハマった。ちょっとした隙に指輪同士をぶつけあわせる。指輪の強度でも確認しているのか指輪同士を当ててくる。時々そのあとに指を絡ませて、俺の手を握って遊ぶ。    指と指の間をくすぐられると俺としても放置できないので、周りに子供たちが居なかったら、とりあえずキスすることにしているし、ベッドでやってきたら抱いている。俺に「スケベスケベ、スケベ親父」と言うが、康介の方がエロく触ってきているので誘惑に乗る俺はおかしくない。    ずっと康介は弓鷹と一緒にいるので触れる機会がない。  弓鷹と風呂に入るし、弓鷹と寝るし、今も弓鷹と一緒に海に入っている。  昔は海に興味ないという顔をしていたのに子供たちと楽しげに笑ってる。    宣言通りに瑠璃川に買わせたらしいバナナボートにまたがる康介の姿は正直エロい。  どこにでもあるようなトランクス型の海パンだが前傾姿勢でバナナボートに抱きつく腰から背中のラインが扇情的だ。これを見ているのは俺だけだろう。  水上バイクに乗ってバナナボートを引っ張っている久道は当然見ていないし、弘子の泳ぎの特訓に付き合っている鈴之介も見ちゃいない。    瑠璃川はスイカとバーベキューのセットを持ってくると言って消えたままだ。  薄っすらと、というか確実にこれから起こる嵐の予感を感じる。  あの久道が声を荒げた事態が起きている。俺は悪くないが責任は俺がとらないとならない。  俺が効率的だと思ったように瑠璃川もまた効率的で正しいと思ったようで、仕事の下見という名目で数人がこの無人島にいるらしい。瑠璃川が呼び込んだのは久道の家庭環境や気持ちを知らないので仕方がない。俺も久道も説明することなどしなかった。後輩として、昔の仲間として邪険には出来ない。    連絡ツールは弘子によってどこかに隠されたので誰がどこにいるのかも俺は把握できない。  その気になれば分かるかもしれないが、島の中で会ったら島の施設の従業員の顔をしてもらう。康介は瑠璃川すら覚えていないなら他の誰だって覚えてないだろうから考えないことにする。    わざわざ久道に話をさせにいったのに上手くいかないものだ。  深弘を見ると砂の中に肘まで埋めるという地味な遊びをしていた。  寝てないのは珍しいと思ったので身体全体に砂をかけて固めていく。  嫌だったのか立ち上がって砂を払いだした。  無言ながら邪魔するなというメッセージが聞こえてくる。    青空の下で悲しくなってきた。

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