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番外:下鴨家の人々プラス「海問題29」

下鴨康介視点。    オレが徒党を組んだ集団から受けた嫌がらせの一つにわかりやすく「仲間外れ」というものがあるが、仲間になった記憶がないので外されたとは思わない。    周囲から嫌われている、自分が嫌がらせを受けていると感じたことのひとつに飲食物のすり替えがある。  シュークリームやたこ焼きの中身がカラシだったりワサビだったりするのはゲームとして成立していたのかもしれない。  挑戦的な期間限定の新商品を買って回し食いやジャンケンで負けた人間に食べさせる。    関わりに合う気がないのでオレに持ってくるなと思っていたが、弘文がオレの口元に運んだりするから酷い。つい、食べてしまって酷い目にあった。甘いのか辛いのかよくわからないものを美味しいと言い出すやつらは頭がおかしい。    弘文かオレが高校に上がる前後にお遊びから悪意ある嫌がらせへと緩やかに移行していた。  まずくても口にできる範囲だったカラシやワサビがお笑い芸人もビックリの量になって食べ物として成立しなくなっていた。弘文は悪ふざけがいきすぎだとして多少注意はしていたけれど嫌がらせの度合いは深まっていた気がする。    オレは弘文が口に入れてるものは安全でおいしいので弘文が食べているものを横取りするのが正しいと学んだ。オレが食べているものがおかしいと気づけば弘文がやめるように周囲に働きかけるのでハズレが来たら弘文にも渡しておいた。    ちょっとしたイタズラの範囲がどこまでなのか、オレはわからない。  一口も飲み干せない激マズ炭酸飲料を予告なく飲ませてくるやつらと友好関係は築けない。  彼らからしたらオレが歩み寄る気配がないから排斥行動に出たのかもしれないが、陰湿な感じはした。    喧嘩か、喧嘩の仲裁に弘文が行くときにオレの手の中に口に入れたくない謎の物体があると「食べ終わるまでここから動くなよ」と死刑宣告をしていくことがあった。  一方的とはいえ約束なので弘文をすぐに追えない。食べ物を捨てられないので動けない。  久道さんも「二時間もかかんないと思うから待ってて」と言って放置。  口直しにまともな美味しいものをくれても、最初の段階で返品を許されない謎のシステム。  オレはこの時期のせいで輸入食品はまずいものだと刷り込まれた。国産品しか信じない。パッケージの裏にある成分説明が日本語じゃないものは味も匂いも最低だ。    オレと数人が残るたまり場にオレの手にある残飯を処理するためだけにサングラスとバンダナの男はやってくる。  たぶん年齢はオレと同じだ。初めて会った時はオレより背が低かった。     「弘文がいじるから耳を直してたら風紀委員長に会ったよ。……会長と仲がいい印象とかなかったけど」      残飯処理係といい懐かしい顔ぶれだ。  久道さんの目が鋭くなるのは弟である風紀委員長が来ていると知らなかったんだろうか。   「何か言われた? いや、ってか、康介くん、ヒナを知って」 「ひよこ? それはわかんないけど、コレは残飯だろ」    弘文からそれ以上口を開くなという無言の圧力があるが、本人がうなずいているのでオレは間違っていない。  大き目のサングラスで顔が隠れがちでも、嬉しそうなのは分かる。   「こいつがどれだけの人間を病院送りにしたか分かってんのか」    ヒソヒソと弘文に耳打ちされるけど知らない。  オレの前ではどこからともなく現れてマズイ飯を処理してくれる不審者だった。   「気に病まないようって言ってくれてたから伏せてたが、久道の兄貴を病院送りにしたのはこいつだ。危険人物だ」 「へぇー」 「リアクション薄いな。この人でなしめ」 「いや、だからオレ全然関係ない話じゃない、それ」    不良同士の揉め事なんか知らない。  

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