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番外:下鴨家の人々プラス「海問題30」

下鴨康介視点。 「てめーがヒナを無視しまくってケンカ売りまくってただろ」 「何の話」 「ヒナは単独行動だが、沸点低いバカを引き連れてることも少なくなかった。ナイフとかスタンガンを標準装備だと思い込んでるバカどもだ。ヒナは素手で人の骨を砕くから、そっちのが厄介だけどな」 「残飯がケンカ強いとか、頭のネジが外れたやつらに好かれつつ野放しにしてたとか、……だからどうしたって?」    弘文は回りくどい。さっさと結論を言ってもらいたい。  親がふたりでヒソヒソ話しているのを子供たちが不思議そうに見ているじゃないか。  まったく弘文は空気が読めない。   「両方の陣営にとって都合のいい生け贄が必要になったってこと」    久道さんが補足するように右側から話しかけてくる。弘文が左側にいるからだろうけど、大人三人が顔を寄せ合ってヒソヒソしているのは変な感じだ。  オレの中には疑問しかなかったが、弘子が出番待ちをするように仁王立ちしていたので話を打ち切った。  弘文と久道さんの反応からしてオレに明かしていなかった過去の事件があるらしいが、詳細を知ったところで過去は過去だ。   「十六時前だけど、オレが一番最後だよな。弘子、ペナルティは?」 「ゆったりさんなコウちゃんがラストになるだろうという予想はぴたりと当たりました」 「元々がオレ用の罰だったってことか」 「ここに居りますお雛様、自分に撮れない下鴨康介はないと豪語する変態」 「へぇ」 「コウちゃんに会えない悲しみを私たち子供の写真を撮ることで癒そうとして現在、アルバムが百冊を突破しているとのこと」 「それは見たいな」 「俺も欲しい」    オレは見たいしか言ってないのに久道さんは欲しいという。さらりと強欲。   「カーテンが開いていると窓際で日向ぼっこしているコウちゃんと深弘は望遠レンズで撮り放題」 「ヒナっ、運動会とかだけにしろって言っただろ。ガチ犯罪はやめろ。盗撮はアウトだ」    危険人物だというわりに弘文も残飯を便利なカメラ係にしている。  言い訳のように「ガス抜きゼロだと暴発するだろ」とオレを見てつぶやく。暴走ではなく暴発なあたり危険物の取り扱い状態だ。   「はいはい、まだ弘子さんの話の途中です」  手を打ち鳴らして自分に注目を集める弘子。  小学校に入って同年代の子たちと一緒にいる時間が増えたからか威厳が増している。   「うちのクラスでは定期的に親自慢大会が開催されるのです」    オヤジマン大会とはなんだ。  格好いい親父を決めるのか、ヒーロー的な、何とかマンという言い方が似合う親父を探すのか。   「順当にいって弘文マンが満場一致で納得の一位か」 「ヒロくんのことは置いておいて、コウちゃんをプレゼンする際に写真の少なさに気づいた私、下鴨弘子」    娘に脇にどけられた弘文に「まだ親父ってほどの貫録がないから」とフォローしたら「うるさい、黙ってろ」と素っ気なく返された。弘文はすぐに拗ねる。   「プレゼンはプレゼントではないのです! 資料提供をヒロくんに呼びかけても渋られ、ひーにゃんはヒロくんにデータを消されがちな役立たずさん」 「面目次第もございません。少しでもエロ目線が入った構図だったりするとヒロは速攻で消すか自分だけで楽しみだすからね」 「そこでこの、お雛様っ」    べべんべんべんと幻聴が聞こえてくる。  最近、子供部屋のBGMを落語にしてるからだろうか。  抑揚の利いた喋りになっている。   「ひーにゃんのようにヒロくんの圧力に屈しません。両手が砕かれ、首だけになろうともシャッターを押す意気込み」 「ヒナは本当にそうするだろうから嫌なんだよ」 「私たちが自然の写真を撮る中でひたすらコウちゃんだけを撮る変態が後ろからついてきますが、よろしいな」    ここで鈴之介が手を上げて「これから暗くなっていくし、とても怖い」と当然のことを口にした。  オレと弘子と鈴之介が同じチームなので後ろからカメラを持って追ってくる不審者は他人事じゃない。   「おにいはホント、妹の気持ちを尊重できないお人よ! 芸能人より数倍綺麗とか主観おつって、切り捨てられてムカムカイライラして夏休みに突入した私の気持ちを分かりなさいっ」  地団太を踏む弘子に敵う人間は誰一人いない。  芸能人もピンからキリまでいるので弘子と言い争った相手の気持ちも分かる。  言ってくれればオレの写真などいくらでも撮らせるし、昔のなら下鴨の家に成長記録としてアルバムがあるだろう。   「私の苛立ちは頂点に達し、下鴨康介写真集を作らなければ収まりが効かぬのです! 二冊組で! 一夏の思い出な形で! 資金はひーにゃんが出しますっ」    オレは写真集の被写体らしい。  残飯も久道さんも乗り気だが弘文は渋い顔。  興奮で涙目になった猫耳軍服姿の弘子のおねだりに勝てるわけもなく「流通ルートには乗せない」と結局折れた。  こうやって父親の威厳が日々失われていくのだとオレは弘文の背中を叩いた。怒られた。ひどい。    

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