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番外:下鴨家の人々プラス「海問題40」

久道視点。  ヒナがカメラをリンゴ果汁でベタベタにしていたので濡れたタオルを渡す。受け取らないヒナに信用されていないのかと思ったら弘子ちゃんが横から乾いたタオルを出すと二つ一緒に手に取ってくれた。   「こういう時は半分濡らして、半分乾いてないと使えぬでしょうが」    小学校低学年に負ける自分の心遣い。いいや、これは弘子ちゃんができすぎている。どうしてなのかと思ったら鈴くんが悲鳴を上げてタオルやティッシュと叫んでいる。発生原因は康介くん。何かをこぼしたらしい。そういえば康介くんのヒロ見つめすぎ問題のせいでときどきタオルが必要になる場面がある。ヒロを見すぎていて手元や口元がおろそかになったりする康介くん。    深弘ちゃんがいるとヒロより視線が深弘ちゃんに行くし、今日の昼のバーベキューのような康介くんがヒロの前だと問題ない。それでも思い出すと親鳥のように鈴くんと弘子ちゃんが康介くんの口に食べ物を運んでいた。みんな、かわいかった。   「このぐらいなら舐めとけばいいだろ」 「そういうことじゃないっ」    ヒロがセクハラでもしているのか鈴くんが何やらお説教モード。  ひっくり返されないようにか弓鷹くんが子供たちが好き勝手に具を乗せたピザを持ってきた。俺の方を見たので「切ろうか」と聞いたら少し困った顔になった。   「ひーにゃん、私に聞くことがあるのではなくて? 勝者である、私に!!」 「俺と弓鷹くんもこのグレートゴージャス弘子さまの好物盛り合わせピザを貰ってもいいかな?」 「ピザの耳のクリスピーな部分はあとでハチミツをかけるから具を上に乗せて汚さぬようにね」    俺とヒロと弓鷹くんと深弘ちゃんは負けたのだ。豪華な食材を利用した料理を口にする権利はない。という建前があるので勝者である相手チームの誰かにお伺いを立てることになっている。弘子ちゃんが気前のいい勝利者として二つ返事でどの食材も食べさせてくれるので贅沢な夕飯になっている。    ピザの名前を作っている最中に繰り返していたので言って欲しいんだろうと覚えていて良かった。弘子ちゃんは俺が覚えていたことに上機嫌でかわいい笑顔を見せてくれる。弓鷹くんは忘れたからこそ「どうしようかな」って顔になった。    子供たちのこういったやりとりを見るとヒロの迂闊さというのが透けて見える。    ちゃんと分かりやすく康介くんは前を振りしてくれるから、それに素直に乗ればいいのにヒロは外して様子を見るのだ。戸惑い揺れ動いている康介くんの心を見つめようとする悪趣味。困った康介くんがヒロの服をギュッとつかんだりする仕草に心臓がつかまれたりするので、ヒロを責められない。    康介くんがかわいいという絶対正義が揺るがないからこそ、康介くんのかわいさを引き出すヒロはヒロのままで良い気がしてくる。    ヒナも同じ気持ちなのか手やカメラをふいたあと、食事に手を付けることなく写真を撮りまくっている。撮るべき場面ばかりでカメラを置けないヒナの口元に食べ物を持って行ってやることを考えていると天使が現れた。    康介くんがあふれんばかりの笑顔で「このジャガイモ、おすすめっ」とホイル焼きのジャガイモを持ってきた。  

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