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番外:下鴨家の人々プラス「海問題41」
久道視点。
ヒナとヒロと康介くんが話している間に変な話題を子供たちが聞かないように頭をひねった結果、思いついたのがホイル焼き。子供たちは何を包んで焚き火に入れるのかを真面目に話し合う。火に近づきすぎると中が生で外が焦げると考察し合っていた。
弘子ちゃんはリンゴが一番おいしいと主張。
鈴くんは白身魚と香草とキノコ。
弓鷹くんはジャガイモを何も入れないものとチーズを入れたものを用意した。
他の食材も適当にホイルで包んで焼いてみた。大体美味しい。
偶然なのか深弘ちゃんが手に取っていたマシュマロはすぐにあぶりながら食べた。火の前に子供たちを釘付けにする食べ物をチョイスする深弘ちゃんに将来性を感じる。
「このジャガイモ、ほくほくしてて甘い!」
康介くんが上機嫌な理由がジャガイモだとするならさすがの次男だ。よくわかっている。
「残飯じゃないぞ。あ、ちょっと食べちゃったけど」
すべて丸ごと天使だった。
ちょっと、と言いながら半分はジャガイモを食べている康介くん。
汚れたからか上半身を脱いでいる。タンクトップ姿がまぶしいのは肩のあたりの噛み跡のせいだ。
「コウちゃんもう虫に刺されちゃった? あとでヒロくんに塗ってもらって」
弘子ちゃんが目ざとく発見した虫刺されは位置からして虫の名前は下鴨弘文だ。焦ることもなく康介くんは「風呂上りに頼むことにする」と返した。気づいてないっておそろしい。弓鷹くんは居心地悪そうにピザを食べている。
「弘文がケチャップかけてこようとするんだよ。このジャガイモはそのままでいいのに」
どうやら先程はそれで揉めたらしい。
「何かかけても塩をひとつまみぐらいだよね」
俺の相槌に康介くんは深くうなずく。ちなみにマヨネーズをかけて食べていた弘子ちゃんはそっとヒロの方に移動し終えている。
ヒナがカメラを構えたまま康介くんにジャガイモを食べさせてもらっていた。羨ましいがこの状態でも手を震わせることなく康介くんを撮り続けるヒナの素晴らしさを見るとこの状況が当然の思えてくる。ママ友になったやつらを見ると康介くんは釣った魚にエサを与えるタイプだ。釣り上げるものを吟味する分だけ、一度ふところに入れると甘いのかもしれない。ヒロとは逆だ。ヒロは簡単に仲間に入れるがエサは自分で探し出せのスタイル。
ヒロは困っているタイミングの人との遭遇率が高いので気づくと他人に恩を売っている。気づくと嫉妬や恨みや喧嘩を売られている康介くんとは対照的だ。
人を威嚇したり恐喝ばかりしているヒナがぼそぼそと「おいしい」とつぶやいているのが涙を誘う。康介くんが「そうだろう。ケチャップはいらねえんだよ」と自信たっぷりなのがかわいい。
日が暮れたといのにサングラスなヒナだが、康介くんの姿はきっとよく見えているはずだ。次に街で出会ったら俺が酒を奢ってやりたい。聞きたいことや語りたいことが今日の数時間だけでいっぱいできてしまった。
ヒナの強暴性に対する一歩引いた気持ちは康介くんを前にした借りてきた猫より大人しいところを見ると消えた。康介くんの目がなければヒナはやっぱり取り扱いが難しいかもしれない。けれど、俺の傷を康介くんが心配すると思えば近くの川に石を投げるぐらいで終わらせてくれそうだ。ヒナは考えなしの馬鹿じゃない。だからこそ、ヒロの会社にいるのだろう。
「お邪魔していいかな」
優しくほがらかに見えて拒絶を許さない狡猾な狐。敵対すると自動的に悪人にされる面倒な人種。人を陥れることを何とも思わないぬめぬめとした気持ちの悪さがある笑顔。酒を持ってきたのはヒロを言い包めるエサだ。子供たちのいる家族への手土産としておかしい。
奥で懐中電灯を持っている瑠璃川が「俺は止めましたっ」と動作で伝えてくる。役立たずすぎる。
高級食材すら物理的に不味くさせる最低な男を平和な空間に干渉させるなんてあってはならない。これは楽園への冒涜行為だ。
「邪魔だと思うなら来るなよ。迷惑なやつだな」
誰だか把握していない上でのこの的確さ。天使の攻撃力はやはり高い。康介くんはヒナのカメラのフラッシュがなくても後光が差している。
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