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「海問題 久道にとっての現実と真実4」
木鳴弘文の家族は崩壊していて、それが俺やチームの人間たちへの優しさに繋がっていた。
似たような身の上の人間は驚くほど多かった。家族に不満がなくてもヒロに憧れて付き従った人間は多い。けれど、依存して、頼りきりになったのは帰る場所のないものばかり。
ヒロはこじれた家族を取り持ったり、家出少女たちの一時預かりもしていた。頭のおかしい奴が時々現れても自分たちで対処できないレベルまでにはならない。見極めて本当に危ないものは警察なり、大人に任せていた。
いろんな失敗談を見て自分だけの理想の家族が欲しいとは思わないところがヒロと俺の気が合うところだったんだろう。
ヒロも俺も避けていたものだと勝手に思っていた。
四人の子持ちなんて意外すぎる姿だ。
想像もしていなかった。ヒロが家庭を築けるとは思わなかった。
そういう人間ではなかった。
作り上げることができるのは仲間という狭いのか広いのか分からない集団がせいぜい。
ヒロにとっての仲間は家族同然だった。崩壊した自分の家族よりよっぽど信頼できる真の家族かもしれない。子供時代の逃げだとしても自分の家に背を向けていた俺たちはヒロの与えてくれる居場所でぬくぬくと過ごしていた。康介くんがチームの人間をさしてモラトリアムと言っていたのは鋭く端的だ。
物心ついてからずっと鬱屈とした気持ちの捌け口を求めていて、ヒロが作ったチームを整える手伝いとして憂さ晴らしをしていた。俺の衝動はヒナの暴力と方向性が似ていたのかもしれない。ヒナの周りのやつらは意味不明だが、ヒナ自身はシンプルな考え方の人格破綻者だったので、ある程度の距離感なら付き合える。
義理の兄になった相手は善意の押し売りを得意にする人間だった。触れないで欲しいと発するオーラは無視。近づくなと告げたところでついてくる。最終的にベタな変装でチームの中に入り込んだ。
ヒロに再婚相手の連れ子だと伝えると「どうしたい」とたずねられた。俺に判断を任せたのは俺の義理の兄だから以上に言外に「お前が嫌ならチームに要らない」と伝えてくれていた。当たり前のように見せるヒロのヒロの信頼というか優しさというか尊重というものがくすぐったくて、義理の兄を放置したのは間違いだ。この時に徹底的に排除したなら俺の世界は平和だった。
義理の兄は持ち前の愛想の良さと包帯でぐるぐる巻きであっても美形なのがわかるせいか、チームですぐに一目置かれる存在になった。
どうでもいいと思い続けていたのはそう思わなければ相手がこちらの領域に踏み込んでくると知っていたからだ。あれほど向き合いたくない相手はいない。無視しなければ自分の大切なものが踏みにじられる。
チームの中でアレと接して平気だったのはヒロと康介くんだけだったんじゃないだろうか。
ヒロは本質を無視して表面的な功績で評価して、康介くんは本質を理解しているからか、アレから気にかけられても基本的に受け流していた。
人の中にある悪意というのは普通は表面に出てこない。ただ一定の条件がそろうと恐ろしく膨れ上がり伝染して共通意識に仕立て上げられる。
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