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「海問題 久道にとっての現実と真実6」

   自分たちよりヒロが大切なものを作ってそれを外側からしか眺めるしかできないことが、淋しくても悲しくても忘れちゃいけないことがある。    ヒロは自分が憎まれたって構わないと思ってるやつだ。殴りたければ殴りにこいと実際に口にしている。不満があるなら陰口を女々しく叩くんじゃなくヒロに叩きつけに行けばいい。康介くんではなくヒロに構われたいのならヒロ本人にぶつかるべきだ。    お前らはヒロの何を見てるんだと自分を見失ってるやつらに似合わないことを怒鳴りつけたが効果はいま一つ。アレに洗脳されるように自分にとって都合のいい言葉だけを集め続けたやつは自滅していった。俺の勧めでヒロと殴り合ったやつらは今もヒロの会社にいるらしい。    脳みそ筋肉だから雰囲気に流されたり、義憤に駆られたりするんだろう。  元いじめられっこの粘着質を発揮した馬鹿どもがヒナと接触して被害を広げだすのは別の話のようでいて地続きだ。  全部アレのせいだというには証拠は足りない。チーム内で急にヒロが想定していないだろう行動を起こしたやつらはアレによくない感情を刺激されて増幅されたなんていうのは俺の妄想に近いのかもしれない。    ぬるぬると、ぬめっとした空気は感じても実態がつかめなかった。  悪人は悪人の顔をしない。そういうことなのかもしれない。あるいはヒロが解釈するようなチームの人間の愚痴を聞いて心を軽くしてやったと良い方に感じるべきなのか。    アレの何がどう悪いのか。俺は言葉にして説明できない。わかるのは理由など考えずに強制的に排除するべき毒だった。  組織の中にアレがあっていいことは何もない。      アレの悪事の証拠は俺よりも先にヒナが手に入れたのだろう。  弘子ちゃん曰く味噌汁の事件の裏側について語る際にヒナが学生時代のころの話もしてくれた。  ヒナが意図的に病院送りにするレベルにしたのならアレの悪事が露見したのだと俺はどこかで安心していた。見舞いには行かなかったし、関わりあう気もなかった。    ヒロが会長で俺は一瞬だけ副会長。康介くんが新入生としてやってきて俺は会計になってチームのたまり場ではなく生徒会室でふたりを見つめることが増えた。学園の中と外での違いはビジュアルの違いなのか。    比較的ガテン系脳筋族が多めなチームの人間たちと出生や見た目を重視する学園の人間たち。  ヒロを兄貴と慕うタイプは康介くんのような序列無視に反感を持ちやすいが、親衛隊なんかでまとまる集団は康介くんのやることをすべてプラスに変換するのが仕事だった。    アレが入院してからチームはおだやかだが、集まりが悪くなったこともある。  ヒロが街に出ることが減ったからだ。ヒナを恐れているというわけじゃない。もう少し上手く立ち回れば酷い怪我をさせることなどなかったと考えていたのかもしれない。    ヒロは自分が蹴られようが殴られようが気にしないが、避けられる戦いに他人を巻き込むと落ち込むこともある。ヒナとは和解できたはずだとヒロは思っていたんだろう。話せばわかる相手はでないけれど、話さない方法で分かり合えるとヒロは期待していたはずだ。そして、ヒロの考えは正解だったからこそ、現在の会社の中でヒナのポジションは重要なところにある。  

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