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「海問題 対峙してわかる退治の難しさ2」

「所詮は弘文の許す範囲の弘文の機嫌を損ねないレベルの言動で弘文が許容できる程度の嫌がらせしかしてないって話をしてるんだよ。だから、久道さんはプライドとか捨ててさっさと弘文に『あいつマジムカつくから自重するように言って』ってチクり続ければいい」 「えぇぇ?」 「たぶん、久道さんの感じる不快感とかあっさり終わる。オレは手を出さないとか弘文が言ってるのは完全にフリじゃん。手を貸すって言ってるようなもんだよ。弘文は少年漫画の住人だから頼られたら見捨てない。そういう奴なのは久道さんが一番わかってるだろ」    久道さんが肩をすくめて「そう言われればそうだけど……」と言いながら気が進まなそうなので「オレたちは久道さんに世話になってるよ」と口にする。   「弘文に大きな借りを作ったら、オレたち家族に対して借りを返してくれればいい。貸し借りでいえば下鴨一家としての借りの方が大きくなっていく気がするし。だから、やりたくないことはやらなくていい。やれるやつに任せておけばいい」    これは弘文自身が口にしていたことだ。  適材適所に人を配置するのが賢い人間。  全部を自分でやろうとするのは大間違いだと言っていた。    そして、いろいろとオレの知らない情報を想像で補完して考えると弘文にとって久道兄は組織の中でちょうどいい潤滑油という道具だった。しかも、ただの道具じゃない。久道兄は道具であろうとした道具だ。    弘子が「底抜け善人なお人好しか今世紀最大の悪党か」と言っていたのがなんとなく聞こえていたが、オレや久道さんに今世紀最大の悪党と思われていいと感じてどんな行動もとれる底抜け善人なお人好しというのが弘文か見る久道兄の姿なんだろう。    オレに押しつけられた飲食物にあらわれている陰湿さに善人やお人好しなんていう印象はないが、報告だけ聞く弘文からすれば、多少のやり過ぎがあっても五体満足で元気な下鴨康介がいるので何も疑わない。    弘文にさえ嫌われたり拒絶されなければいいという底の浅さがある。だからオレはゲームの不正にも転校生にもイライラしていた。弘文はオレのものだから手を出すなあっちに行けと親衛隊を追い払うように叫びたかった。転校生が久道兄だと知らなかったせいでショックで動けなかったがそんなことも織り込み済みのはずだ。   「弘文に性格が悪いってバレてるのに変わらずに性格が悪いって最悪のパターンじゃないか」    心を入れ替える気がない人だというのは「怒ってないよね」とオレに聞いた時点で確定している。  悪意があるからこそ陰湿的な企てをするわけじゃない。性根が腐っていて性格が悪すぎるから行動に現れるんだ。弘文は根っからの困ったさんに甘い。そんなのはオレが一番知っている。言って直らないものは仕方がないと思っている。    でも、レールを敷いて誘導していく。そして、正しいことを強いるのだ。    弘文が気を回せばもっと平和で穏やかな世界が訪れたかもしれないが、そんな弘文におんぶにだっこで生きていくのは久道さんもオレも望んでいない。自分のことは自分でやれっていうのが弘文で、自分で出来ないことは人を使えっていうのも弘文。    最初から全部を弘文に任せるなんて格好の悪いことは誰もしたくないという気持ちを逆手に取っているのが久道兄だ。    弘文というルールの枠内で自分にできることをしようとして、陰湿な気持ち悪さをこちらに投げつけてくる。悪意のない悪人なんてこれ以上になく地雷物件だが、弘文は見守るのだ。仲間だから。少年漫画の住人だから。仲間を信じるのだ。  弘文の姿勢は格好いいが放置できない。    ここはもう、強権の発動しかない。  そのためのオレだ。  

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