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「海問題 下鴨康介の感動の結末」
下鴨康介視点。
弘文が優しい。そして、いやらしい。
弘子からテントを譲られたのが嬉しかったのかご機嫌だ。
子供たちの歯磨きシーンを見なければ寝かせないぐらいの厳しめな父親っぷりが今日はお休みらしい。
久道さんに頼んでいた。
焼きリンゴを食べたことでオレはバニラアイスに対する興味が下がっていたが、せっかくなので赤ワインをかけて食べる。
悪くないと思いながら汗ばんできた。
弘文は「代謝がいいよな」と言いながらワインの量を増やしてきた。
これはバニラアイスのワイン掛けではなくワインの中にアイスを浮かべている図だ。
ぐいっとワインを飲んでアイスをちまちま食べる。
そういった平和な光景のはずだったのだが、なぜか気づくと状況が変わっていた。
弘文にもたれかかりながらアイスを食べさせてもらっている。
オレはぐったりしている。
テントの中に移動しているので半裸でも怒られない。
暑くなっているのは弘文がバニラアイスにかけるのを赤ワインからウイスキーやウォッカに変えたからだ。
ちょっとかかっているのはなかなか美味しい。
でも、お酒が多すぎると苦いというか辛いというか痛い。
弘文の会社の詳細をpadで確認しつつ弘文にアイスを食べさせてもらう。
テントの中で二人っきりでくつろいでいる弘文と服をそこそこ脱いだ状態のオレ。
絶対に確実にエッチなシチュエーションなのに手も足も出ない。
会社の規模や業務内容の把握に頭のリソースを割いているのに弘文がアイスを食べさせてくる。
熱くなった口の中に冷えたアイスと金属のスプーンの感触。
スプーンがアイスを運ぶだけではなく口の中を刺激していくので何だか落ち着かない。
「酔ったのか?」
「よっへないひ。うう、かんれらいひ」
「ろれつ回ってないな」
オレをなだめるように弘文が頭を撫でてくる。
気持ちいいと目を閉じていると「社長さん、会社のことはいいんですかー」と茶化す。
弘文にとって自分と仲間たちがお金を稼いで生きていくための場所が会社であって、もともと社長になりたかったわけじゃない。必要だったから会社を立ち上げて社長になっただけだ。その必要というのが、オレだ。
オレと生きていくために会社を作った。
弘文が一人で生きていくなら会社など作る必要はない。
自分が自由に時間を作るために会社の上の方にいる必要があった。
だから、弘文は社長になっただけだ。
社長という立場に固執しない。オレが社長になったらそれはそれで構わないのだ。
弘文にとってオレの重要性がどれだけのものかを分かりやすく示している。
嬉しいのでちゃんと社員に認められようとか、業績を上げようとか考えているのにアイス責め。
弘文がドSなのだと分かったところで性癖は直らない。
「ひろい」
「あ? 敷地面積が」
酷いと言いたくても舌が回らない。
オレがちゃんと考えているのに邪魔する弘文が酷い。
「康介」
真面目な顔をする弘文はやっぱり格好いい。
触らずにいたpadが暗くなったせいでテントの中は薄暗い。
テントの中で唯一の光源になったライトはゆらゆらと揺れるロウソク仕様なせいで妙な空気を作り出している。
熱い、暑い、暗い、苦い、甘い。
身体全体で感じるもの、視覚情報、舌先からくる情報が頭の中でぐるぐるとまわる。
「康介」
名前を呼ばれているだけで身体がどんどん敏感になっていく。
吐き出す自分の息が熱くて涙ぐむ。
「俺はお前と出会えてよかったと思ってる。お前は?」
弘文がこんなことを自主的に言うなんて天変地異の前触れを想像してしまう。
だが、それよりも問題はオレのろれつが回らない事ではなく、このことを翌日覚えていない可能性が高いことだ。
今後ありえないかもしれない弘文からの甘い囁きを記憶に残せない。
そう思うと何だか泣けた。
オレが素面の時に言ってよと叫んだつもりで出てきた言葉はあうあうあー。
笑いながら抱きしめられて背中を撫でられる。
このまま吐いてやりたいところだが気分は驚くほどいい。
ただお酒のせいか動けない。完全に脱力している。
弘文がこのまま寝るかと言ってきたら寝ることになってしまう。
それはさすがにどうかしている。
放置プレイ禁止を訴えるように弘文を見ると笑われる。ここは好き好きかわいい愛してるとか言い出す場面だ。まったくそういう常識を弘文は分かってなさすぎる。
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