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運命じゃない人 2
「うわ!なんだこれ、びっくりした」
窓辺に吊るされた白い物体に、秋人は思わず声を上げる。よく見ると顔が描かれていたのだが、逆さまになっていたのだ。
「あ、秋人、ダメだよ」
元に戻してやろうと伸ばした手を、郁が優しく遮る。
「なんで?これ、てるてる坊主ってやつだろ?逆さにしたら意味なくね?」
「雨が降って欲しいから、逆さにしてるんだよ」
「?」
首を傾げて見つめると、郁はため息を吐きながら首を振る。もう一つ作ったらしいてるてる坊主を、また逆さまに吊るしながら口を尖らせる。
「だって雨の日じゃないと秋人は一緒に出かけてくんないじゃん。おれはもっと外でデートとかしたいよ。あーあ、早く梅雨が来ればいいのに」
「え、気付いてたのか」
思わず出てしまった言葉に、じとりと責めるような視線を送られる。
「そんなにおれと一緒に歩くのが恥ずかしい?雨の日ならみんな傘さしてるから、周りの人に見られることも少ないもんね」
拗ねたような口調に、申し訳なさが募っていく。けれど同時に、理由を誤解してくれていることに安堵した。
「そうじゃない。まあ普通すぎる俺と郁じゃ釣り合わないとは思うけど、恥ずかしいとかじゃないから」
見た目に無頓着なせいで普段はだらしない印象の郁だが、整った顔とモデル体型を持ち、少し身だしなみを整えて外に出るだけで、簡単に周囲の視線を集める存在になる。
平凡な顔で平均身長の秋人は、郁を引き立てるのに一役買っていることだろうといつも思っている。
「釣り合わないって何?怒るよ。おれは見せびらかして自慢したいと思ってるのに。そりゃあ、まあ、収入面では釣り合ってないけどさ」
もごもごと口ごもる郁に、気にするなという意味を込め、ふざけて軽く体当たりをしてみる。卑屈合戦を終わらせるために、わしゃわしゃと犬にするように髪を乱してやった。
「じゃあ一緒に買い物にでも行くか。夕飯何食いたい?郁の好きなもの作ってやるよ」
「やった!秋人大好き~!ハンバーグがいいな!」
「子供か」
笑いながら、じゃれついてくる郁を受けとめる。こうして感情を素直に表してくれるところが好きだと思う。本音を押し込めてしまいがちな秋人には、いつも郁が眩しく見えていた。
――もし郁の気持ちが他の誰かに移ってしまっても、きっと正直に伝えてくれることだろう。
二人で出掛ける支度をしていると、窓の外からポツポツと雨音が聞こえ始める。心の中でほっとして、秘かにてるてる坊主に感謝した。
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