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運命のΩ ~Side:ルキ~ 1
――みにくいオメガのこ
そんなタイトルの童話を読んだことがある気がして、ぼんやりと記憶を辿る。βの集団に放り込まれると、いつだって自分は異質な存在なのだと思い知らされる。
「如月ルキです。よろしくお願いします」
新人研修を終えて営業部に配属されたルキは、控えめに、けれど意志の強さだけは主張するように、芯を持つ声で第一声を放った。
ざわりと揺れる周囲の反応はいつものことだ。小学校で初めてΩ以外の集団と接して以来、この見世物にされる儀式のような瞬間は、何度も経験していた。それでも、決して傷つかないわけじゃない。
「OJT担当は杉浦だ。早く独り立ちできるようにな」
主任に指名された男が、ぺこりと頭を下げる。第一印象はとにかく普通。けれどもその普通の反応が、ルキにとっては普通じゃなかった。瞳の奥をどれだけ注意深く探っても、ルキを珍しがる色が見つからなかったのだ。
肩の力が抜けて自然に笑みがこぼれ、緊張が解けていく。
「杉浦秋人です。後輩の指導につくのは初めてだから、至らないところもいっぱいあると思うけど、よろしく。質問とか、何かあれば遠慮なく言って」
「はい!頑張りますので、ご指導よろしくお願いします!」
なんとなく、この人の下でなら辛い仕事も頑張れると、根拠のない自信が満ちた。
一通り基本的な説明を受け、いよいよ午後から挨拶回りに出ることになった。
「最初は俺の担当全部を一緒に回って顔見せだな。相手に覚えてもらって、信頼関係を築くのが大切だ」
さらっと言われた言葉に、思わず顔が曇る。
αが持っていてΩが持っていないもの、その最たるものが“信頼”だとルキは思う。
教室で物が無くなればΩが疑われたし、Ωのテストの点が良ければカンニングを疑われた。けれどαがそれを一言否定するだけで、簡単に疑いは晴れるのだ。理由を訊いても、αだから、Ωだから、そんな答えしか返ってこない。
ルキは見た目で男か女か分からないとはよく言われるが、Ωであることは一目瞭然らしい。それは感覚的なものなので、きっと初対面の相手も最初からルキをΩとして見てくるだろう。果たして信頼関係など築けるものなのか、ルキは早々に不安になった。
突然、頭をわしゃわしゃと犬にでもするように撫でられる。驚いて目を見開くと、訳知り顔の秋人が、うんうんと頷いている。
「分かる分かる、最初は俺も不安だったよ。でもさ、新入社員の言うことなんか信用できないってのは相手にとったら当たり前のことだから。時間かけてやっていこうな。頑張ってれば、誰かは絶対に見ててくれるから、大丈夫だ」
頼もしい笑顔を向けられて、すっと心が軽くなる。信用されない理由がΩだからだなんて微塵も考えていない秋人は、ただ現実を知らないだけかもしれないけれど、ルキを一人の人間として見てくれているのが分かって嬉しかった。
同時に、そんなことを新鮮だと、嬉しく感じるほどに疲弊していたことにも気付いた。
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