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運命のΩ ~Side:ルキ~ 5

高3になり、いよいよ受験勉強も最後の追い込みだと意気込んでいたある日、施設の応接室に呼び出された。 こんなに立派な部屋があったのかと驚きながら室内を観察していると、常勤の医師が入って来た。子供のころからお世話になっているので、すぐにリラックスムードが漂う。βでありながら、この施設のΩの子供たち全員に信頼されているうちの一人だ。 ルキも最近は抑制剤を処方してもらう関係でよく顔を合わせていて、カナがいなくなってしまった今、一番信頼している相手かもしれない。 医師はルキをソファに座らせ、テーブルを挟んだ正面に座った。 「ルキ君、抑制剤は足りてる?学校生活は問題ないかい?」 「はい、大丈夫です。事前に飲むタイミングも分かってきたので、αに接触しても問題ありません」 実際はカナの言葉を思い出して極力避けるようにしているのだが、それでも数回すれ違った際には何も感じなかったので、問題ないだろうと思っている。 「そう、良かった。受験勉強は順調?」 「はい」 医師はなかなか本題に入らず、回りくどく質問を続けてくる。 「志望大学は3年前にカナ君が受けたところか。もうそこに決めてる?やりたいことがあるのかな?」 「はい」 「うーん。お金の問題は?ここを出ないといけなくなるけど」 「2年間バイトで貯めたお金で入学金と一年分の学費と生活費は払えます。それ以降の分は入学してから稼ぎます」 「ルキ君もしっかりしてるね」 吐息交じりにそう言うと、医師は白衣の内側からおもむろに白い封筒を取り出してテーブルに置き、ルキに差し出してきた。 「……?これ何ですか?」 「3年前、ここを出て行くカナ君から預かったものだよ。バイトで貯めた学費だ。ルキ君の学費にあてて欲しいそうだ」 「え」 その分厚さに、手に取ることもできずに医師の顔をぽかんと見つめる。医師は何とも言えない表情で、気まずそうに当時の話をしてくれた。 医師によると、カナは一度大学から合格通知をもらっていたらしい。けれど一週間もしないうちに一方的に合格を取り消された。話を聞いた医師が大学側に問い合わせると、αが入学を希望したからということだった。 その大学を受験したわけでもないαに、横から簡単に奪われたのだ。 「どうして……カナはそんなこと、一言も……」 絶望に、何を考えればいいのかも分からなくなる。医師はルキを落ち着かせるように、手を伸ばして肩を軽く叩いてくれた。 「カナ君は、むしろ合格通知の方を疑ってる様子だったから、誰にも言ってなかったんだろうね。取り消しの連絡がきても、「やっぱりね」って。私はあの顔が忘れられないよ」 眉間をぐっと押さえながら、医師が俯く。そのときのルキには、医師を気遣う余裕などなかった。 「どうしてですか。また“Ωだから”なんでしょう?なんで……」 「αの卒業生を一人でも増やしたいっていうのはどこの大学でも同じなんだよ。αは卒業後のエリート街道が約束されたようなものだから、大学の格を上げるためにも欲しいんだろうね」 「……そうですか」 どこまでいっても、世界はそうなっている。ここで医師に何を言ったところで、世界が変わるわけでもない。 ルキは燃える怒りを押し込めて、そのエネルギーを全て受験勉強に向けた。 高校の3年間、なぜかルキのテスト結果だけ順位欄が空欄になっていたけれど、ずっと1位を保っていたはずだ。カナを選ばなかった学校など捨てて、志望校のランクを大幅に上げてやった。多くのαに勝たなければ意味がないと思ったからだ。 試験は最高のコンディションで受けることができ、自己採点では全科目合格ラインを余裕で超えていた。これで不合格ならさすがにグレてもいいだろうか、なんてできもしないことを考えている間に、世の中の流れは急速に変化していった。 バース性の突然変異に関する情報が、ものすごいスピードで拡散されたのだ。その影響か、大学側から何度も性別を証明する書類を求められた。直接電話で確認されたりもして、異常なしつこさに辟易していたところに、渋々といった雰囲気で合格通知が送られてきた。

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