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運命のΩ ~Side:ルキ~ 8

「僕は諦めませんから……」 そう言うだけで精一杯だった。初めて好きになった人は、目の前でαの男に奪われた。何でも持っているくせに、ルキの運命も希望も奪っていった。 あの男を見た瞬間に体に起こった変化が怖くてたまらなかった。あれがΩの本能なのか。 血が沸騰するように、全身がカッと熱くなった。秋人を襲いそうになって以来、常用している抑制剤を強力なものに変更していたけれど、まるで効いていないかのように発情を促された。 秋人に触れるその手に噛み付きたいと思ってしまった。秋人を抱きしめても許される彼の腕が欲しかった。秋人の耳元で囁ける声も喉もあの唇も、秋人の作った食事で構成される彼の全てが――。 そこまで考えて、はっと我に返る。結局欲しいのは秋人だけなのだ。どうすれば秋人を奪うことができるだろう。もしできるなら、秋人が傷付かない方法が良い。 けれどあの男なら、自分に縛り付けておくために、多少秋人が傷付くことでも平気でやってのけるだろう。想像するだけで嫉妬に狂いそうになってくる。 ふと思い出したのは、艶やかに笑っていたカナのこと。βの彼氏からαを奪ったことを、幸せそうに話していた。そのβは今頃どうしているんだろう。奪い返そうとは思わなかったんだろうか。それは、なぜ。 初恋は、すでにルキの手から溢れそうになっていて、何かに縋りたくなってくる。誰かをこんなに欲しいと思ったのも諦めたくないと思ったのも初めてで、子供のように駄々を捏ねたい気分を初めて味わう。全てが新鮮で、生きている実感を伴い、とても辛い。 いつか振り向いてくれるかもなんて、希望は持たない。けれど欲しいものは欲しいという、自分の気持ちに正直でいようと思う。 ルキは長期戦を覚悟して、仕事では一番の信頼を得ることを誓い、今後の計画を練り始めた。

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