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運命のα ~Side:郁~ 5

あの場所の最寄り駅で張っていると、幸運なことにすぐに男を見つけた。スーツ姿で疲れた顔をしているから、会社帰りかもしれない。 声をかけようとすると、意外にも早足でどんどん奥まった通りに入っていき、行き先が気になってくる。一定の距離を保ってついて行くと、とあるバーに入るのが見えた。 しばらく待っても出て来ないので、躊躇いながら中に入ると、なんとなく察するものがあった。一斉に向けられた客たちの視線が、全て郁を値踏みするようなものだったのだ。 ボサボサの髪とよれよれのシャツを見た時点で、彼らには不合格の烙印を押されてしまったけれど。 目当ての男は、カウンターで背中を丸めてくだを巻いていた。バーテンはポーカーフェイスながらうんざりした空気を漂わせ、適当に相槌を打っている。郁は一直線に男の元に向かい、軽く肩を叩いて声をかけた。 「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 「わ。俺が声かけられるとか珍し……」 一瞬見開いた瞳は、すぐにとろりと眠そうに細められる。今まで酔っ払いの相手など避けてきた郁は、すぐに店に入ってしまったことを後悔した。 「面倒だな……素面のときに話がしたいんだけど。連絡先でも教えてくれる?」 「ん?なんで?一晩だけでいいのに。でもできるかなあ……俺もそのつもりだったけど飲み過ぎたみたいで眠くなっちゃった」 男は、まるで首の座っていない赤子のように、ぐらぐらと不安定に頭を揺らす。やがてまぶたは完全に落ち、郁のみぞおちに額を突っ込んできた。 「ぐぇっ……っ」 思わず情けない声が出て、勘弁しろよと思う。けれど、再度会える保証もないし、この機会を逃したくはない。迷った末に、男の希望通り持って帰ることにした。 飲み代を払い、タクシーに押し込め、生活感のない自室へと連れ帰る。部屋の半分を占めるベッドに放り投げると、冷静にこの状況を不思議に思った。 気になったことはとことん追求する自身の性質は自覚している。けれど、ばかみたいに無防備な男の寝顔を見ていると、本当に運命の番なんてものが気になっているのか、自分に疑問を投げかけたくなってきたのだ。 「っ!」 急にぱちりと目を開き、男が飛び跳ねるように立ち上がる。 「な、なに!?」 「と、と、トイレ……!」 「ああ、はいはい」 焦る男を観察しながらトイレへと誘導し、個室の外で待つ。幸い吐いている気配は無かったので、ひとまず安心しながら冷蔵庫へ足を向けた。中には、ミネラルウォーターが数本入っているだけだ。 取り出して飲みながら待っていると、覚束ない足取りで戻って来た男がじっと郁を見た。たぶんお互いに、珍種の生物でも見るような目で見つめ合っていた。 どう見ても普通の男だ。平均身長で細身の体に、適度にくたびれたスーツを纏っている。愛嬌のある顔立ちではあるが、特徴といえるほどのものはなく、平々凡々。まさにβの見本のようにも思える。 それなのに――。

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