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運命のα ~Side:郁~ 7

翌朝から、あの手この手で秋人を口説きまくった。後に秋人には口説かれているとは思えなかったと言われたけれど、郁なりに必死だった。秋人の優しさに付け込んで、どんどん秋人がいなければ何もできない男になっていった。 一方で、研究室の伝手を使って個人的に広げていた人脈を辿り、郁はバース性検査を受けた。数値に問題は出ないはずだったが、念のため秘密を守ってくれると信頼のおける機関に行ってもらった。 支援金目的で研究室のトップはαの名前になっているが、実際は何もしないお飾り状態だったから、所属する研究員はやりたい放題だった。 郁は手元に残しておいた薬を分析し、自身の血液を調べ、体内にある抗体が健在であることを突き止めた。そのため、一時的に陰性化させてから検査に臨み、無事にαと診断された。 体調は最悪になったけど、秋人が付きっきりで看病してくれたので、ちょっとクセになりそうになった。 新たな研究テーマに運命の番システムを掲げ、郁は新しく研究室を立ち上げた。方々から予想通りの反発があったので、例の製薬会社をちょちょっと突いてスポンサーにつけ、一瞬で黙らせてやった。 驚いたことに、前研究室にいたメンバーのほとんどがついてきて、すぐに満員になった。秋人に出会ってからの郁は、まるで人間のようで興味深い研究対象だと、口を揃えて言われた。秋人に犬のようにじゃれつく郁を見れば、彼らは卒倒するかもしれない。 多すぎる支援金にはαの生活費も含まれていたが、全てメンバーの給料に上乗せする形で分配した。そんなことはないと信じているけれど、秋人は“貧乏な恋人”の世話がとても楽しそうなので、お金を持っている郁だと付き合ってもらえないかもしれない。 それになによりも、まだしばらくは、秋人にαだとバレるわけにはいかない。もしバレてしまったら、きっと捨てられてしまうだろう。 思いの外秋人の失恋の傷は深く、郁は後ろめたさもあって自信を持つことができずにいた。 もう少し、しっかりと外堀を埋め、逃げられないようにしなければ。真実を告げるのは、バラした後に秋人の心をしっかりと繋ぎとめる計画を練り上げてからだ。今なら泣き落としくらいでいけそうな気もするが、同情が上回るようでは意味がない。 秋人の意思で、自分勝手に郁を求めてくれるまで――。 そんなことを考えていたはずなのに、同棲することになって浮かれまくり、つい告白してしまった。秋人といると、全てが緩む。それでも、大丈夫だと信じたかった。秋人と共に在ることが、郁にとって最上の幸せなのだと、分かってくれていると思いたかった。

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