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運命のα ~Side:郁~ 8
計算が大幅に狂ったのは、郁に運命の番が現れたことに起因する。
秋人を傷付けた自分が許せなかった。冷たい雨に打たれながら、ずっと騙していたことへの天罰かもしれないと思っていた。αだと告げるときにも、以前から知っていたことは隠してしまった。
事はそれだけでなく、ルキというあのΩは、よりにもよって秋人を狙っている。どこか他所のαにでも惚れてくれれば郁との運命をちょん切るだけで済んだのに、至極面倒なことになっている。
頭を抱えて冷静になろうとしてみても、秋人が絡んでいる以上、無理な話だ。ルキはナチュラルなダメ男製造機である秋人の趣味じゃなくても、後輩という大きな武器がある。秋人は頼られれば断れないはずで、郁の心配は尽きない。
そういえば、ルキは郁に会っても秋人への気持ちを貫いた。郁も体内の免疫を無効にした状態でルキに会えば、秋人への気持ちがどれだけ強いかを示せるだろうか。
何か策を打たなければと焦っても、初恋に溺れる郁の頭は沸騰していて、まともな案は出て来ない。そうして今に至っても、秋人の気持ちは理解できなかった。というよりも、分かることを拒否している。
ルキがどんなに秋人を幸せにしてくれる奴だとしても、郁は身を引くことなど考えられない。秋人がずっと郁の運命の相手に怯えていると気付いても、ただ子供のようにマーキングして、縛り付けることしかできなかった。
どうしたら、秋人が我儘を言い甘えてくれる男になれるだろう。どうしたら、何があっても手離したくないと思ってもらえるだろう。
人生で初めて他人の気持ちを考えようとしている郁にとって、それはどんな課題よりも難しく、そして答えを間違えるわけにはいかないものだった。
「秋人」
「ん?」
「そばにいて、ずっと。おれを一人にしないで」
「何言って……一人じゃないだろ」
「一人だよ。おれの中には秋人しかいないよ。秋人だけが好き」
秋人は困ったような顔をして、出会った日のように乱暴に頭を撫でてくれる。情けなくて堪らないけれど、今郁にできることは、こうして染み込ませるように気持ちを素直に伝えることだけだった。
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