31 / 32

運命かもしれない人 7

それからしばらくは、素直に向き合うことを心がけながら、友達付き合いを続けるつもりで接した。けれど長くは続かない予感があった。 郁が自分に足りていないところを秋人に見出したように、秋人も郁の中に欲しいものをたくさん見つけてしまった。内面的なこと以外にも、生活能力が壊滅的な郁と世話好きな秋人の相性はぴったりだった。 初めて郁を部屋に呼んでから、毎日夕食を共にするようになった。研究に没頭すると食事のことなど頭から抜け落ちていたようだったけど、一緒に食べるようになってからはそういうこともなくなった。 みるみるうちに顔色が良くなる郁に使命感を覚え、レパートリーを無数に増やしていった。一人だと手抜きばかりだったので、秋人自身の食も豊かになった。 穏やかな日々の中で、惹かれていることには気付いていた。まるで秋人に甘え方を教えるように、素直に甘えてくれる郁を可愛いと思っていた。ときに率直に言葉にして好意を伝えてくれると心が跳ねた。 美味しいものを食べて郁を思い出したり、綺麗な景色を一人で見ることに物足りなさを感じたりしたけれど、今度は恥ずかしくなって伝えることができなくなった。 欲しかったきっかけは、なかなかやってこなかった。焦り始めたところで、秋人は一週間の研修に行くことになった。地方で行われるので、当然その間ずっと家には帰れない。 「も~、秋人は心配性だなあ。大丈夫だよ、だってちゃんと戻って来るんだよね?おれは大人しく待ってるよ」 心配していたのは食事のことだったけど、郁が寂しがっていることを心配していると勘違いされたらしかった。秋人を信じきっている瞳が、心の中の何かに触れる。 「うん、じゃあ、行ってきます」 「行ってらっしゃい」

ともだちにシェアしよう!