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第11話

「癸生川……と、とりあえず外へ出ようか」 動揺が隠しきれない巽を可愛いと思った俺は、笑みを浮かべたまま無言で頷いた。 時刻は夜の11時。 まだ電車はどの線も動いている時間だった。 「どうする?まだ今だったら帰っておふくろさんと仲直り……できるんじゃねぇか?」 慎重に言葉を選ぶような話し方に、俺はノンケの巽が少しだけその気(、、、)になったような錯覚に陥った。 だからと言って、巽と簡単にワンナイトラブする程俺だってバカじゃない。そのせいで、俺は5年前将来有望で優しい天嶺を自分に縛り付けているのでないかと後悔しているからだ。 「……」 銀座で見掛けたお似合いの2人。 遅かれ早かれこういう日が来るだろうことは、経験上分かっていた。 偶然その日が今日だっただけで。 社会人8年目ともなるといい加減空気が読めるようになった万年平社員の俺は、相手に嫌な役回りをさせない術も学んだ。 天嶺は誰が見ても将来有望な男。 どうか堂々と周りに祝福されるような幸せを手にしてほしい――。 「やっぱり今夜は巽のところに泊めてくれないかな……」 熱くなる目頭に気が付かないふりをした俺は、強い意志でスマートフォンの電源を落とし今にも消え入るような声で巽に懇願していたのだった。

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