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第14話

「……紅羽、俺言ったよな」 背後で喋り始めた天嶺の声は、先程までの震えていたものとは違いすっかりいつもの堂々たる“壬生天嶺”へと戻っていた。 背後から少しずつ距離を縮めていく天嶺の足音は、振り返らずとも意地悪い笑みを浮かべている気配を察知した。 突然の天嶺の変異に俺は息を呑む。 「約束違反だよ、紅羽」 ゆっくりと迫って来た男は俺の両手首を強引に捕らえると、自身の着けていたネクタイを片手で器用に外しそのまま縛り上げた。 「天嶺っ?!」 「悪いのは誰?散々煽った上に約束まで破って――。どうして今更、訳分かんないこと言い出すんだよ。俺から逃げようなんて甘いことは考えるな。昨日は逃がしてやったが次はない」 背後から俺の臀部へとスラックス越しに押し当ててくる天嶺の熱雄は、既にいつでも挿入られるような状態へと成長を遂げていた。 グイグイと双丘を探ろうとする熱雄の無意識な動きに俺は思わず甘い声が洩れてしまう。 「昨日はここ(、、)に俺以外の他のヤツのを挿入()れてアンアン言ってねぇよなぁ?」 いつもとは違う耳を塞ぎたくなるような天嶺の乱暴な言葉攻めに俺は左右に首を振る。 「じゃぁ、何で他のヤツを好きになったなんて嘘付いたんだよ?!」 スラックス越しにも関わらず俺の後孔を探り当てた天嶺の熱雄が、俺を責める言葉と共に執拗に攻め立てていく。その刺激に、俺の熱雄へと日々快感をもたらす大きく形の良い天嶺の手を待ち侘びながら、甘く苦い蜜をビュクビュクと溢れさせていたのだった。 「……っ、俺には告白すらしてくれなかったのに……何故、他のヤツを好きだなんて――」 激しく攻め立てる天嶺は自身の手の動きとは裏腹に、苦渋の色が窺えるような低い声を絞り出す。 「この5年、俺がどんな思いで……」 ……え、今なんて? 俺、5年前のあの晩天嶺に告白していなかったのか――? だからあの日のこと(、、、、、、)何も憶えていなかったのか……? 酒のせいで忘れた訳ではなくて、そもそも告白自体していなかったというのか。 だとしたら、何故天嶺は“1ヵ月だけ時間が欲しい”ってあの朝……俺に言ったんだ? 真実を確認するために斜め上にある天嶺の顔をゆっくりと下から覗き込む。 「……」 無言である天嶺の美貌の顔は苦悩と後悔に満ちているように見えた。 「――俺、あの晩(、、、)お前に告白……してなかったのか?」 無言でゆっくりと視線を逸らしていく天嶺に、俺はそれが答えだと悟った。 だが何故、告白もしていない俺にあの日あんなことを言ったのだろうか。 ゲイでもない男があの晩、裸で……そして俺がさも告白したかのように仕向けた意図が分からず酷く困惑したのだった。

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