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第17話
目が覚めるとそこはラグジュアリーホテルだった。
「あれ、俺……?!」
身体の上にのしかかる大きな手の重さで覚醒した。俺は誰かの腕の中で眠っていたことに慌てて飛び起き、腕の持ち主の顔を恐る恐る確認する。
「えっ、誰……壬生?しかも俺たち裸……!」
俺だけでなくすぐ隣で寝ていた天嶺も裸であることから、この空間で起きていたであろう秘め事を一瞬にして察知してしまう。
……こ、これは酔った勢いってヤツか。
確実にゲイである俺から誘ったパターンだよな、これ。
今までそんな失態をしなかった自分自身に驚愕すると共に、たとえ好きな相手だとしても酒の力を借りて迫ってしまったことを深く後悔する。官能の力は我を忘れさせる。そう痛感した。
慌ててベッドから抜け出そうとすると俺の手首は不意に捕まえられる。天嶺だった。
「1ヵ月だけ時間が欲しい……待っていてくれないか」
……え?
まさか俺、告白までしちゃったのか。
ワンナイトラブどころか、告白から段階を経て情事へと進んでしまっていた昨夜の自分の行動力に驚く。
酒に酔っていたにも関わらず、ぬかりない俺って――。
呆れよりも酷い後悔の方が残った俺は、二度と同じ誤ちを犯さないよう、この時人前で、外で、一切酒は飲まないことを強く決意する。
天嶺がシャワーを浴びている内に気まずさから逃げるようにしてホテルから出て来てしまった俺は、ゆっくりと二次会終わりから今までのことを振り返っていた。だが何一つはっきりとは思い出せない。
一つ言えることは、天嶺が美人の彼女を捨ててまで俺を選ぶことはこの先一生ないだろうということ。また、この晩の交わりが間違いであったと天嶺自身がそう遠くはない内に気付いてしまうということだった。
――部署が変わる前で本当に良かったぜ。
これは事故だ。
忘れよう。
胸が抉り取られるような苦しさを無視し、いつものようにこの恋が手遅れな発展をしてしまう前に諦めるよう自分へと強く言い聞かせた。
この作業が失恋と同じくらい苦しいんだよなぁ……。
隣の席からいなくなった男の残像を断ち切るように俺は仕事へと打ち込み始めた。悔しいことに、そのノウハウは全て天嶺が俺へと叩き込んだ内容でこの部署にいる限りあの男のことを全て意識してしまうことに気が付いてしまう。
「クソっ!」
事ある毎にいなくなった人間に対して悪態をつきたくなる俺は重症だった。
だが1ヵ月後、俺の目の前に現れた天嶺によって俺の抑えていた気持ちは戸惑いと共に全て溢れ出してしまうのだ。
天嶺からの逆告白により……。
――そして現在。
「やっぱり俺、思い出せないんだ。5年前のあの晩のこと……」
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