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古瀬涼太と小野田春樹 1

「くそ……何で長続きしないんだ」 「最長何日だっけ?」 「三ヶ月半」 「うわリアル~」 涼太は不機嫌な顔で苺が既にない無残な姿のショートケーキを頬張る。勢いよくフォークを突き刺し口へ運んでいく様子は、まるでいじけた子どもの様だった。 そんな涼太と向かい合っているのは同じ大学に通う小野田春樹。バイト先で知り合った二人はなんとなく波長があい、なんとなくつるんでいる。共通の趣味もないが一緒にいて楽なのだ。出会って一年ちょっとだが、お互いの一通りのことは知っている。親友に限りなく近い友達なのかもしれない。 講習を終えた二人がやって来たのは近くの喫茶店。少し奥まった所にあるためあまり知られていない、隠れスポットだ。二人はここへやって来ては世間話や恋愛トークをだらだらとする。全く気を使わない自由な時間を過ごすのだった。 「ファッションだって気にしてるし、完璧なデートプランだって立ててるし、記念日だって忘れてない」 「なのにフラれちゃうと」 「何でだと思う?」 真剣な表情で聞いてくる涼太に、春樹は微かに笑みを浮かべる。外見だけを見れば恋に悩みを抱いている様に見えないこの男が、こんな顔をすることを知っているのは自分だけ。そう思うと優越感が沸々と湧いてきて、つい口元が緩んでしまったのだ。 「さあね」 かなり明るめの金髪をふわっと揺らして、春樹は首を傾げた。その顔は涼太同様、整っている。目の保養にはもってこいの景色だ。近くの席に座っている女性二人組がちらちら視線を送るほど涼太と春樹の容姿は目立つ。 ただ、この二人が恋愛に難ありな性格だということを女性達は知らない。彼女たちが見ているのはあくまで表側だけ。その裏にどんな色が隠されているのか、知る由もない。 「他人事だと思いやがって」 「他人事だよ」 「はぁ……付き合うまでは上手くいくんだけどなー」 肩を落としてため息をつく涼太。一見、失恋を心から悲しんでいる様に見える。しかし春樹だけはその悲しみがそこまで深くないと気づいていた。 今までも彼女にフラれては同じ反応をしていたが、一度も立ち直れなかったことがない。だいたい一週間ですっかり立ち直る。そして新しい彼女を探し始める。この繰り返し。きっと一週間後には彼女と別れた日の天気すら忘れていることだろう。 「答え教えてほしい?」 「え?」 「なんで涼太の恋が長続きしないのか」 「……本当に分かるのかよ」 「涼太より恋愛経験あるからね」 何度も何度も自分で探して見つけられなかった答えを春樹は知っている。その事実を素直に受け入れられなかった涼太は言葉を失って黙り込む。店内に流れるお洒落な音楽がいやに大きく聴こえてきた。 ここでこいつに答えを聞いたら負けを認めた感じになる。あとシンプルにムカつく。余裕の笑みを浮かべやがって。 心の中ではそんな悪態をつきつつも、涼太は自分の本心に耳を傾けてみた。 ムカつく、ムカつくけれどここで答えを聞いたら恋が上手くいくようになるかもしれない。もうあんな不毛な別れ話をされずに済むかもしれない。もう意地を張るのはやめて答えを聞こう。うんそうしよう。 「……教えてください」 涼太は赤みがかった茶髪の頭を軽く下げた。誰かに頼み事をするのは久しぶりで、慣れない行動に心がざわつく。頭を上げるタイミングを完全に見失ったが、「顔上げてよ。」という春樹の言葉に救われた。 見上げた先にいたのは頬杖をついてしたり顔の春樹。明らかにこの状況を楽しんでいる表情である。

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